川上:自分のためのサービスはない?

庵野:ないですね。だからつらい。鶴の恩返しのように自分を削って作っています。

川上:庵野さんが一番魂を削って物を作っていると思いますよ。

庵野:そういう作り方しかできない。手を抜こうと思ってもできない。最初手を抜こうと思っていてもギリギリまでやってしまう性なんです。

川上:次の『エヴァ』がいつ完成するのかって、庵野さんに聞く情報が一番間違っているんです。庵野さんから遠い人ほど正確なことを言って、ネットで予想しているファンが一番正しい(笑)。

庵野:そうなんですかね(苦笑)。

アニメーター見本市について

氷川:お二人でやられているアニメーター見本市についても伺いたいんですが。

川上:みんな自由にやていますよね。大抵の商業作品って普通見れば狙いがわかるものなんですが、見本市に出ているのは、あ、狙いどころがそこなんだ、という作品ばかりなんですね。

庵野:同じ系列が一本もなくて、これだけ作品の多様性があるのは面白いです。ネットにも公開するのでぜひ見てください。見事にバラバラです。同じ監督が二度やっても違います。

川上:いかに今自由に作品を作れる環境がないか、ということですね。

氷川:情報量という観点だと、見本市の作品はカオスですね。

庵野:アニメの場合は色も含めてコントロールできる。今石(洋之)がやってますが、三色か四色であれだけのことができる。それで言えば漫画は白黒だけですからね。そういうのも含めてアニメの面白さだと思います。

川上:アニメーター見本市は情報量の塊のような作品ばかりだと思います。

庵野:めちゃくちゃですね(笑)。

氷川:フルCGもあれば線画だけの作品もある。

庵野:コマ撮りの奴とかもありますね。『オチビサン』は一コマ一コマ動かして一年近くかけて作っていて、そのエネルギーは画面からも伝わってくると思います。

氷川:そういう場合、情報量ってどういうところにあるんでしょうか。

庵野:落ち葉の一つ一つのディテールもありますが、それぞれが動いていることに手作業を感じる、手作業の向こうに何かがある、魂がこもっている感じがするのが情報量だと思います。

川上:『かぐや姫の物語』は作っている現場の人ほど情報量を感じるみたいですね。

庵野:現場にいると身にしみてわかるので「わー、すげー!」と思います。わからない人には手を抜いた絵に見えてしまうのでしょうけど、あれは普通のセルアニメよりよっぽど大変。その大変さをどう伝えるかと思うんですが、高畑さんはきっとその大変さを伝えたくないから情報として切ってるんですね。

川上:伝える必要もないと思っているんでしょう。

庵野:どこまで伝えるかをコントロールできるのがアニメのいいところです。『オチビサン』も、CGだと思う人もいるとでしょうが、湯のみの一つから作って、お弁当の中身まで食べられるもので一コマ一コマ動かしていますから。

川上:本当のご飯粒であることが見えるのが重要なんですよね。

庵野:何か画面から伝わってくるのがすごさだと思います。アニメは魂を込めやすいと思う。実写だって魂込めた芝居は伝わるんですが、作り手の魂を定着させられるのが映像のいいところです。分解していくと、情報になってしまいますが。多い少ないだけではなく、情報には重い軽いもあると思います。いろいろ複雑で、だから映像は面白い。

氷川:情報量の話を踏まえて、庵野さんは今後どんなものを作っていきたいですか?

庵野:昔からやっていることなので、これまでとやっていくことは変わらないと思います。

氷川:川上さんはどうですか?

川上:皆さん『コンテンツの秘密』を買ってください! 今回の本はギリギリまで書いていたので、あまり宣伝とかもなく出荷されてしまって。僕は書き終えて満足してるんですけど、出版社さんがちょっとかわいそうなので。

氷川:では、ご興味のある方にはぜひ買っていただきたいと思います。お時間なのでそろそろ終わりたいと思います。本日はありがとうございました。