毎年4月上旬が近づくと、日本の住宅設備メーカーや自動車会社などが、「国際家具見本市『ミラノサローネ』に出展」するという情報を目にすることが多くなる。また、日本の著名デザイナーが、大手家具メーカーとコラボレーションして同イベントに作品を出展する、という情報も発信される。では、ミラノサローネというこのイベントについて、知っている人は(インテリア業界関係者以外に)どの程度いるだろうか?

どうしても有名どころの出展がクローズアップされるため、報道だけを見ると大手メーカーのためだけの催しに映る面もあるかもしれない。筆者もまた、今回実際にその舞台となったイタリア・ミラノを訪れるまでは、そうした印象を持っていた。しかし、実際に見て回ってみると、若手クリエイターやクリエイター予備軍にこそ参加してもらいたい、世界中のさまざまな作り手が一堂に集う「デザインの祭典」だと感じられた。

本稿では、今年(2015年)の「ミラノサローネ」(4月14日~19日開催)における業界関係者/プレス公開期間に現地取材した写真を交え、この大規模なイベントの概要を説明していきたい。

ミラノサローネのメイン会場「ロー・フィエラ・ミラノ」

「家具見本市」の域を超えたデザインの祭典

「ミラノサローネ」というのは通称であり、正式名称は「Salone del Mobile.Milano」。業界見本市というと、日本であれば東京ビッグサイトや幕張メッセなどの展示会場で行われるのが一般的だが、日本のそれとはスケールが全く異なる。展示会場は非常に広大で、会場構成が似ている東京ビッグサイトの東ホール全館と比較した場合、約2.8倍の広さの設備をすべて使って展示を行うと言えば、その規模は伝わるだろうか。

「ミラノサローネ」はこの展示会場での催しを指す単語だが、それに加え、ミラノ市街地の各地域でもこの催事にあわせ、同時多発的にイベントが行われるのが特徴だ。必然的に、一通り見て回ろうとすると1日、2日では到底時間が足りなくなるため、会期は6日前後と長く取られている。

■祭りの中心地「ロー・フィエラ・ミラノ」

この祭典の中心は、ミラノ郊外にあるRho Fiera Milanoという展示会場。先述の通り、非常に大きな建物だ。空間を悠々と使い縦横無尽に張り巡らされた網のような支柱や外壁が非常に印象的で、展示物を見る前から圧倒される。ここでは主に、「国際家具見本市」と銘打たれた通りの、世界的な家具メーカーによる新作発表が行われる。

2015年のオフィス見本市「Workplace 3.0/サローネウフィーチョ」の一部

本会場での展示の一部は隔年ごとにテーマを入れ替えており、奇数年は照明見本市「エウロルーチェ」およびオフィス見本市「Workplace 3.0/サローネウフィーチョ」を実施。今年(2015年)はこちらに該当する。逆に、偶数年はキッチン見本市「エウロクチーナ」とバスルーム見本市「サローネバーニョ」が行われる。

2015年の照明見本市「エウロルーチェ」の一部

会期の多くは業界関係者のみ入場できるいわば「ビジネスデー」なのだが、日本の展示会よりもかなりリラックスした雰囲気。長く延びた通路の両脇にはカフェやジェラート屋などが軒を連ね、この催しのために足を運んだ人々が現地の味を楽しむことも十分可能となっていて、人々は歩き疲れた足を休めがてら食事を楽しんでいた。

会場通路わきの飲食店。各国の言葉が並び、日本語で「レストラン」と書かれている

また、会期最終日とその前日は一般開放されるほか、35歳未満のデザイナー・建築家・学生が出展する若手の登竜門「サローネサテリテ」は入場無料。こちらは見本市ではなく、世界に打って出る気概を持つ世界のクリエイターの作品を一覧できる発表の場で、コンテストも実施される。

■存在感を増す"周辺"「フォーリ・サローネ」

ロー・フィエラ・ミラノでの展示と同時期に、ミラノ市街地で行われる各種イベントの総称が「フォーリ・サローネ」。直訳すれば「サローネの外側」となる。高額の出展費用とさまざまな縛りがあるロー・フィエラ・ミラノでの出展を嫌った地元メーカーが、同会場の外で展示を行ったのが始まりと言われている。ミラノの中心街で大手家具メーカーのショールームも多いブレラ地区や、運河エリアに接しているトルトーナ地区、斬新な展示により急速に存在感を示しているランブラーテ地区など、エリアごとに特色を出して競い合っている。

トルトーナ地区にて実施されたトヨタの「レクサス」ブランドによる展示

近年は家具というカテゴリにとらわれず、世界各国の著名企業が、企業のブランドイメージ向上やデザイン面の訴求のために参加する色合いが強まってきている。その一方で、若手クリエイターたちの自発的な展示も各所で盛り上がりを見せている。ロー・フィエラ・ミラノのような画一的な出展条件は設けられていないため、どのような立場の人であっても参加するチャンスのある間口の広さや、展示の自由度の高さを感じることができるだろう。

そんな現状を受け、近年の市街各地のイベントの総称については、「ロー・フィエラ・ミラノ」を中心と見た通称である「フォーリ・サローネ」ではなく、「ミラノデザインウィーク」が用いられている。そして、一部の家具メーカーを除いた日本企業は、ほぼこの「ミラノデザインウィーク」の方に出展している。

気鋭のデザインが咲き乱れる刺激的な6日間

遠いヨーロッパでの催しであるため、日本までその空気感はなかなか伝わってこないが、ひとつ強調したいのは、国内の展示会とはまったく雰囲気が異なるということだ。特に、入場自由の展示には一般参加者、デザイン学校の学生とおぼしき若者や親子連れなどの地元住民が多く訪れるなど、毎年恒例の「お祭り」としての色合いが非常に濃い。

企業ブースであっても、自分たちの伝えたいことを一方的に発信するのではなく、参加者を楽しませる工夫や斬新な表現を盛り込んだ展示によって実現するものばかりで、ここが国内展示会との最大の相違点といえる。日本企業の出展ブースであっても、ミラノサローネへの参加時と、国内展示会でのそれではまったく傾向が異なっていた。これは、新たなクリエイティブの発露を抵抗なく楽しむミラノという土地の空気がそうさせるのだろう。この空気を求め、各国から企業・クリエイターが数多く集まっているのだと実感した。

同祭典の期間における「主役」が「内(ロー・フィエラ・ミラノ)」と「外(フォーリ・サローネ/ミラノデザインウィーク)」のどちらであるか。また、どちらが中心で、どちらが周辺であるかという区別は、もはや意味をなさないと言えそうだ。どちらにも先進的なデザインは存在し、多大な刺激を受けられるのは間違いない。