急成長かつ約2~3%の極めて低い退職率を実現

リクルートは、2012年10月1日付けでリクルートホールディングスへ社名を変更すると同時に、主要事業部門および横断機能部門を分社化してグループ体制へと移行した。その一企業が、各種サービスを、システム開発やWebマーケティングなど幅広いIT戦略の策定・推進・実行によって支えるリクルートテクノロジーズだ。同社は分社時に153名の社員でスタートしたが、2014年10月には295名へと大幅に増加。2015年4月には350名まで増員を予定している。

IT分野の新卒社員はリクルートホールディングス全体で採用しているため、リクルートテクノロジーズとしては中途採用が基本となる。社員数増加のスピードもさることながら、より注目したいのは約2~3%とIT業界全体の水準と比較すると極めて低い退職率を実現している点だ。そこには、同社ならではの“人と人をつなぐ”ための施策があった。

社内コミュニケーションを活性化させる「スタンプラリー」

まず代表的な例としては、リクルートテクノロジーズとして分社する以前の前身組織から、15年以上もの長きにわたり受け継がれている伝統的な「スタンプラリー」の存在が挙げられる。 これは入社した直後の社員が全員参加するイベントで、部署内外の気になる人に会って話を聞くというもの。話す内容はもちろん、「上司から薦められた」「他部署のことも深く知りたい」「会社に慣れるコツが聞けるかも」「前職が同業だったから」など人選の理由も様々。実施人数は入社後3カ月の間に最低5人となっており、1回につき1時間以内、人事教育グループへのメール報告といったルールさえ守れば誰を対象に選んでも構わない。アポイントメントの取得から自分で行うことになるが、それもまた新しい職場への適応と人脈形成に役立っているという。スタンプラリーの対象は、代表取締役社長の中尾隆一郎氏はもちろん、執行役員やマネージャー、相手の理解が得られればリクルートグループ内の他社から選んでも良いそうだ。

リクルートテクノロジーズ 企画統括室 人事部 人事教育グループグループマネジャーの西村晃氏は、スタンプラリーについて「一緒に働く仲間たちの人となりや仕事内容を知ることに加え、自分の顔と名前を覚えてもらう、人脈を広げて新しい環境に慣れていくためのきっかけをつかむ、といった目的があります。すでに社内の文化として根付いており、スタンプラリーを受ける側も『いつでもどうぞ』と新しい仲間がきたときの恒例行事として「当たり前」のものになっていますから、依頼する際のハードルも下がります」と語る。

リクルートテクノロジーズ 企画統括室
人事部 人事教育グループ グループマネジャー 西村晃氏

さらに「メールやチャットでのコミュニケーションが全盛の時代に、スタンプラリーは非効率でアナログな手法かもしれません。しかし、あえて効率を度外視して“人と人との直接の接点”を増やすことで、より深い人間関係が築けるようになります」と続けた。

中途入社者をタテとヨコでサポートする仕組み「中途懇親ランチ会」と「CP制度」

仲間や人脈を広げるという観点では、「中途懇親ランチ会」にも注目したい。この中途懇親ランチ会は、入社した直後の社員が集まって一緒に昼食を楽しむイベントだ。中途入社の場合、一般的な企業では入社後にそのまま各部署へ配属されてしまうため、「中途入社“同期”」という意識を持ちにくく、同時期入社の仲間と親密な関係を築くのは難しい。その点、中途懇親ランチ会は入社初月と次月の2回を必参加としており、自分が入社した月の前後1カ月、計3カ月間の同期と知り合うことができる。 事前に作成したスライドで自己紹介をしながらランチを楽しむため、同期の人柄や仕事内容を知ることで、ヨコのつながりを作る、各配属部署の組織・業務へ関心を持ち視野を広げることに役立つという。「同期」というと新卒入社では必然として生まれるヨコのつながりを、中途入社の場合であっても作ることにこだわっている、とのこと。このランチ会をきっかけに、“●月同期会”というインフォーマルなコミュニティが自発的にできているそうだ。

そしてもうひとつ、「コミュニケーションパートナー(CP)制度」もユニークな取り組みだ。ビジネスの現場では日々の業務に関わる内容から、オフィスの生活ルールといった細かな部分まで実にさまざまな課題や疑問が発生してくる。最初のうちは良いが、次第に「こんな些細なことまで毎回聞いて仕事の邪魔にならないだろうか」といった感情が芽生えてくることもあるだろう。そこでリクルートテクノロジーズでは、同社や部署特有の仕事の段取りに関する助言に加え、生活周りや事務処理系のサポートを行うCPを、各中途社員に対してマンツーマン体制で業務の1つとして任命。余分な気遣いや遠慮を払拭し、不明点を解決しながらのびのびと仕事ができる環境を整えている。CPは入社前に顔合わせを行い、期間は半年から1年。メンター的な存在として、中途入社者をすぐそばで支えてくれるのである。

前向きに、その人らしく、活躍してほしい

毎月初旬に中途採用者向けの入社式を開催しているのもリクルートテクノロジーズの特徴といえる。一般的に、中途採用者に対して都度入社式を行う企業は少ない。しかし同社では、「人を大事に」「人間関係を豊かに」という考えの基、必ず代表取締役社長の中尾隆一郎氏も出席して毎月入社式を開催するそうだ。

リクルートテクノロジーズ 人事部
採用1グループグループマネジャー 鈴木もも氏

リクルートテクノロジーズ 人事部 採用1グループ グループマネジャーの鈴木もも氏は「仕事でつらいことがあっても、しっかりとした人間関係が築けていれば誰かに相談し、前向きに取り組めるようになります。弊社の取り組みには、組織的な“タテのつながり”だけでなく、同期も含めた“ヨコ・ナナメのつながり”も広く持つことで、社員に楽しんで仕事をしてもらいたいという想いが込められています。前向きに仕事ができれば、その中で自然に柔軟な発想も生まれてきます」と語る。

2012年10月の分社から急拡大を遂げ、現在では中途採用者の比率が約7割にも達するというリクルートテクノロジーズ。さらに継続的な中途採用でも企業としてのバランスを失わず、退職率も2~3%と極めて低い水準を実現している背景には、こうした“人と人をつなぐ” 施策と入社者ひとりひとりの活躍を真剣に考える風土があるからといえるだろう。

リクルートテクノロジーズ社 ミーティングスペースにて