日本の南極観測が新しい観測を成層圏に広げた。第56次日本南極地域観測隊で、九州大学と福岡大学が共同開発した無人観測航空機Phoenix-S(フェニックス エス)1号機が上空22kmのエアロゾルサンプルの回収、上空23kmのエアロゾル濃度測定に成功した。 科学的な観測の高度は、無人、有人を問わず、航空機として前例のない高さに初めて達した。エアロゾルなどの研究に役立つ新しい観測手段として注目される。国立極地研究所と福岡大学、九州大学が3月13日発表した。

写真1. 放球直後のフェニックスS1号機(撮影・第56次南極地域観測隊 小塩哲朗隊員)

同機は、翼幅が3m、最大全重量が10.5kg、高度10kmで最大飛行速度は時速260km。2015年1月24日午後6時5分、昭和基地東方約20kmの南極大陸氷床上のS17地点からゴム気球につり下げられて放球され、エアロゾルの濃度観測とサンプル回収を行いながら上昇し、西方約7kmで高度23kmまで達した。そこで気球が破裂し、パラシュートで降下した。次いで、高度12kmでパラシュートを分離、コンピューターによる自律滑空飛行で、午後8時10分にS17地点へ戻った。最後の高度約100mからは再びパラシュートを使い、南極の雪原に下ろした。飛行は順調に終わった。

写真2. 高度23kmから帰還・回収されたフェニックスS1号機(撮影・第56次南極地域観測隊 小塩哲朗隊員)

表. フェニックスS 1号機の機体諸元

図. 観測で得られた直径0.3μmから0.66μmのエアロゾル粒子の数濃度(左)および気温(右)の鉛直分布。中央やや右寄りの紫の線はサンプリング高度の境界を示す。(提供:国立極地研究所、福岡大学、九州大学)

写真3. 高度23kmでフェニックスS1号機の機上から撮影された映像。中央やや右が宗谷海岸の露岩域.左側が南極大陸。(提供:国立極地研究所、福岡大学、九州大学)

この無人航空機は1機約400万円。通常の自由気球を使った観測では使い捨てにされる高価な観測装置を確実に回収し、繰り返し使用できる。より経済的で、気球並みの実用的な観測高度到達能力を持つ。さらに、自由気球では困難なサンプルの回収が容易にできることを実証した。高度30kmでは、空気密度は地上の約 1/100となり、飛行条件が地上付近と同じ場合、機体の速度は音速近くに達して、機体の強度や機体制御系の限界を超える。このため、一気に滑空させるのではなく、航空機を気球から分離し、一旦パラシュートで対流圏に近い高度まで降下させ、さらにパラシュートから分離して滑空を開始する2段階分離方式を採用した。加えて-80℃の低温環境にも耐えるよう機体を作った。

九州大学大学院工学研究院の東野伸一郎(ひがしの しんいちろう)准教授らが5年前から、無人観測航空機を開発し、試験を阿蘇山やモンゴルで重ねた。福岡大学理学部の林政彦(はやし まさひこ)教授らが搭載する小型のエアロゾル観測機器の開発と観測を担当した。気球分離型無人観測航空機のフェニックス3号で2013年に、南極で高度10kmまで観測した。今回は、さらに改良したフェニックスS1号機で快挙を成し遂げた。飛行は、第56次日本南極地域観測隊の夏隊隊員として参加した東野伸一郎准教授らが南極の現地で実施した。搭載したカメラで、空の黒さと南極大陸の白さのコントラストが印象的な写真も撮影した。

今回の観測で、直径0.3µmから0.66µm(µmは1000分の1㎜)のエアロゾル粒子の数濃度の鉛直分布が得られた。2015年1月の昭和基地上空の成層圏エアロゾル層が3つの層(9~11km、11~13km、13~23kmの領域)から構成されていることを確かめた。高度1~22kmのエアロゾルのサンプル13セットを回収しており、林政彦教授らは電子顕微鏡などで詳しく分析して、その起源を探る。

南極から帰国した東野伸一郎九州大学准教授は「快晴の観測日和で、フェニックスS1号機は空高く運ばれた。気球とパラシュートの2段階分離を経て、ほぼ設計通りの性能を発揮して、自律飛行して目的地に戻り、観測もうまく進んだ。今後、成層圏の有効な観測手段になるだろう」と話した。また、林政彦福岡大学教授は「今後、南極の冬に観測すれば、春に南極上空に出現するオゾンホールの形成過程なども研究できる。今回高度22kmまでのサンプルが回収できたので、研究を進展させたい。この無人機の観測システムで高度30kmまでカバーできると期待している」と観測成功を喜んだ。