花々は何かと気をそそる。花を咲かせる植物ホルモンのフロリゲン(花咲かホルモン)が葉で作られたあと、花芽を作るために茎の先端に移動して働く過程を可視化することに、奈良先端科学技術大学院大学の辻寛之(つじ ひろゆき)助教らが初めて成功した。フロリゲンが花芽に関わる遺伝子を守って、開花をサポートするという巧みな機能も発見した。

写真. (左)稲穂で花芽が作られる過程のフロリゲンの分布(緑色蛍光)。(右)フロリゲンで特定の遺伝子が活性化された様子(オレンジ色蛍光)。ドーム状の構造が、茎の先端の将来花になる部分。(いずれも提供:辻寛之・奈良先端科学技術大学院大学助教)

花芽形成の解明に前進する成果として注目される。奈良先端科学技術大学院大学の故・島本功(しまもと こう)教授、島谷善平(しまたに ぜんぺい)博士研究員、玉置祥二郎(たまき しょうじろう)博士研究員、坂本智昭(さかもと ともあき)博士研究員、倉田哲也(くらた てつや)特任准教授、名城大学の寺田理枝(てらだ りえ)教授らとの共同研究で、2月9日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。

小さな花芽さえできれば、それが大きくなって開花する。フロリゲンは植物に花芽を作らせるホルモンで、その分離は困難を極めたが、故・島本功教授らが2007 年に突き止めた。2011年には、茎の先端でフロリゲンを受け止める受容体も確認され、花が咲く仕組みの理解は進みつつある。しかし、フロリゲンが茎の先端にいつ到達するのか、どのように分布するのか、そしてどのように働くか、などの重要な問題がまだ謎だった。

研究チームは、イネでフロリゲンに緑色蛍光タンパク質を融合させて、フロリゲンの動きを蛍光顕微鏡で見えるようにした。この方法で、フロリゲンがイネの茎の先端に到達して働く様子を初めて追跡した。さらに、遺伝子を改変するジーンターゲティング技術で、フロリゲンが働いたときに活性化する遺伝子を可視化できるイネを作成して観察した。フロリゲンが茎の先端で、遺伝子を活性化しながら、分布を変えていく様子を初めて捉えた。

さらに、フロリゲンがどのように花芽を作っているかを調べるため、最新の次世代シーケンサーで全遺伝子の活性化状態を計測した。その結果、フロリゲンが、遺伝子を破壊する「動く遺伝子」のトランスポゾンの発現を抑制することを見いだした。花は次世代に遺伝子を伝える生殖器官で、トランスポゾンなどによる遺伝子破壊から自らを守る必要がある。フロリゲンはその役割も担っていることがわかった。

辻寛之助教は「トランスポゾンの抑制は、想像されていなかったフロリゲンの新しい機能だ。植物が花を作る仕組みの謎に迫る発見と思う。フロリゲンは花を咲かせて実をつける植物に共通して存在しているため、重要作物でも同様の仕組みが働いているだろう。フロリゲンの分布や遺伝子の活性化を操作できれば、増収なども期待される」と話している。

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