世界的な注目を集めた騒動から、新しい社会のかたちを示す新技術まで、マイナビニュース編集部のテクノロジー担当が2014年の10大ニュースをピックアップ。良いお年をお迎えください!

STAP細胞騒動 - 理研は検証を打ち切り 注目は小保方氏の博士号

1月に「細胞外刺激による細胞ストレス」によって、多能性細胞を効率的に作成するとして発表されたSTAP細胞。iPS細胞をはじめとする万能細胞を用いた再生医療への期待が高まっていたことに加え、発見者とされた理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子 ユニットリーダー(当時)が「理系女子」として脚光を浴びるなど、非常に大きな注目を集めた。

その後の展開はご存知の通り。英科学誌「Nature」に掲載されたSTAP論文は撤回され、小保方氏が早稲田大学で博士号を取得した論文にも不正が認められるなど、同氏が築き上げた業績は一気に崩れ去った。そのインパクトはいち研究者の不正というだけに留まらず、理研の組織改革や、学術界が「科学研究の健全性向上のための共同声明」を発表するに至るなど、日本中で研究者とはどうあるべきかという論争が巻き起こった。

12月、理研は当初3月末までを期限として進めていた検証実験を「STAP細胞は確認できず」として打ち切り、小保方氏は検証終了をもって理研を退職。その後発表された外部有識者からなる調査委員会の報告で「STAP細胞はES細胞が混入したもの」と結論付けられた。今後は、早稲田大学が10月に下した「1年間の猶予期間付き処分」によって小保方氏の博士号が取り消されるのかどうかが注目される。

はやぶさ2宇宙へ - 次に会えるのは2020年

打ち上げの様子 (C) JAXA/JAXA Channel

小惑星探査機「はやぶさ」の後継機にあたる「はやぶさ2」が12月3日、総飛行期間6年、総飛行距離52億kmの旅へ出発した。帰還前は比較的地味な扱いだった「はやぶさ」に比べ、電通が応援キャンペーンを展開し「妖怪ウォッチ」とコラボするなど、「はやぶさ2」は打ち上げ前から大きな注目を集めた。

「はやぶさ2」のミッションは、太陽系が誕生した頃の状態を保っていると考えられている小惑星「1999 JU3」まで行き、観測とサンプルリターンを行うこと。太陽系や地球、生命の起源と進化の過程を紐解く手がかかりになることが期待されている。

10月には国際宇宙ステーション(ISS)に物資を送る米国の民間ロケットが発射してすぐに爆発し、同月にはヴァージン・ギャラギャクティックの宇宙旅客機が墜落しパイロットが1名死亡するなど、米国で宇宙関連の事故が相次いだ。今年日本は「はやぶさ2」を乗せたH-2Aロケット26号機を含む4回の打ち上げすべてに成功するなど、宇宙航空技術の安全性の高さを証明した一年でもあった。

青色LEDで日本人3名がノーベル賞を受賞!

秋に舞い込んできた嬉しいニュースといえばこれ。名城大学の赤崎勇 教授、名古屋大学の天野浩 教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二 教授の3人が青色発光ダイオード(LED)に関する研究によってノーベル物理学賞を受賞した。

1970年代までに赤・緑・黄色のLEDは実現していたが、その後1986年に赤崎教授と天野教授がガリウムを用いることで青色の発光に成功、1993年に中村教授が量産化を実現した。青色が実現したことによってLEDは現在、ディスプレイや車のブレーキランプなどあらゆる用途で利用できるようになった。低消費電力、長寿命なLEDによってエネルギー消費量が低減されることは環境問題だけでなく、エネルギーコストを抑えることにもつながり、電力インフラが十分に整備されていない発展途上国にとっても大きな意味をもつ。

ノーベル財団がホームページ上で発表した「20世紀は白熱電球によって照らされたが、21世紀はLEDによって照らされるだろう」との言葉通り、まさしく21世紀の社会に欠かせない発明だったといえる。

大手自動車メーカーが燃料電池車を発表! - インフラ整備・コスト面が課題

トヨタの「MIRAI」

12月、トヨタが初の燃料電池車「MIRAI」を発売した。日産、ホンダも同じく燃料電池車の開発を発表しており、大きな潮流となりつつある。

燃料電池車を簡単に説明すると、水素を化学反応させて電気を生み出し、それをエネルギー源としてパワーユニットを動かす車のこと。水素は水として排出されるので、ガソリン車などより遥かに環境に優しい車として期待されている。デロイト トーマツコンサルティングは、2030年までには4.4兆円の経済波及効果を持つようになるとの予測を発表したが、そのためには多くの課題がある。

水素ステーションの設置目標数は2015年までに100カ所とされていたのに対し、11月時点での設置決定が42カ所に留まっており、市場本格化のためにはインフラ整備が必須。岩谷産業、富士通、東京ガスが水素ステーション関連事業を発表するなどその動きは加速しており、今後急速な広がりが予想される。

また、燃料電池は触媒として白金を大量に使用するためコストが高いことも普及を妨げる障害となっている。これに対し、九州大学の研究チームが白金の粒径と固体表面上に固定化する密度を減らすことで白金の使用量を10分の1までに減らすことに成功し、5年後の実用化を目指すと発表した。

燃料電池は自動車だけでなく、ノートパソコン、携帯電話、鉄道、発電所など幅広い用途での活用が期待されるだけに、もし上記の課題がクリアできれば私たちの生活に大きな影響を与えることとなりそうだ。

次のノーベル賞はこの研究かも? - 岡山大の人工光合成

植物の光合成は、太陽の光エネルギーを利用して、生物が利用可能な化学エネルギーに変換するとともに、水を分解し、生物の生存に必要な酸素を作り出している。もし「人工光合成」実現できれば、太陽からのクリーンで再生可能な、無尽蔵の光エネルギーを高効率で利用でき、さまざまなエネルギー問題の解決につながる可能性がある。そんな夢の「人工光合成」の実現に一歩近づく研究成果が11月、岡山大学によって発表された。

光合成は葉緑体の中にある、光化学系II複合体と呼ばれるタンパク質複合体によって行われる。同大学は2011年、ラン藻の一種から取り出した光化学系II複合体の結晶を作成し、その成果を報告していたが、X線結晶構造解析で使用するX線回折写真の撮影に必要な数秒間のX線照射の間に、水分解反応を担う触媒中心の一部がX線による放射線損傷を受け、本来の構造とわずかに異なっている可能性があった。

今回の研究では、1パルス継続時間が10フェムト秒と極めて短いX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いることで、X線による放射線損傷で分子の構造変化が起こる前に、X線回析写真を撮影し、光化学系II複合体の構造を正確に解析することに成功した。同成果は太陽の可視光エネルギーを利用した水分解反応を人工的に実現するための触媒の構造基盤を提供するものだという。

(後編につづく)