個人事業主や中小企業向け業務ソフトを手掛ける弥生は2014年10月、青色申告ソフトをサービスとして提供する「やよいの青色申告 オンライン」を発表した。これは他社が提供する「freee」や「MFクラウド確定申告」といった、広義では“クラウド会計ソフト”と呼ばれる製品と同じく、個人事業主をターゲットとした確定申告用のソフトだ。

弥生といえば長年、パッケージ版の業務ソフトを提供していることで知られる。既存のパッケージ版ソフト「やよいの青色申告」を利用しているユーザーからは、やよいの青色申告 オンラインを発表後に「これまでのデータをクラウド版に移行できるのか?」といった問い合わせが寄せられているという。

今回、弥生の岡本浩一郎代表取締役社長に話を聞く機会を得たので、「やよいの青色申告 オンライン」はどのようなユーザーが使うといいのか、特徴や既存製品との連携、今後のロードマップなどについて聞いた。

パッケージ版とクラウド版は現状ではターゲット層が異なる

弥生の岡本浩一郎代表取締役社長

――「やよいの青色申告 オンライン」は、どのような人が使うと便利なのでしょうか?

岡本浩一郎代表取締役社長(以下、岡本社長):2014年10月のスタート時点で最もターゲット(サポートしたい)としているのは、これまで青色申告ではなく白色申告をしてきた人たちです(※次回の確定申告からは、白色申告者でも記帳が義務化され、その手間は何倍にもなると予測される)。

当然この先、パッケージ版の青色申告ソフトを使っているユーザーがクラウド版を使いたい要望はあると思いますので、パッケージ版からクラウド版への移行も2016年の確定申告シーズン以降に対応を予定しています。現時点では、あくまで白色申告をしていた人、もっと言えば業務ソフトをこれまで使っていなかった人を中心に、確定申告の初心者でも使ってもらえる会計ソフトを意識してスタートしています。

――具体的にはどのような点が初心者向けなのでしょうか?

岡本社長:すごく分かりやすい部分でいうと、例えば消費税申告。パッケージ版ではもちろん対応していますが、クラウド版はあえて対応していません。想定しているユーザー層(これまで白色申告だった人)を考えると、消費税申告をしない人が非常に多いからです。余計な機能を付けるよりも、できるだけ「シンプル」に機能を実装しています。

――パッケージ版を使っていた人からすれば、クラウド版ではできない機能があるので、積極的には推奨されないということですね。

岡本社長:今後11月、12月と機能追加を予定していますが、10月のリリースのタイミングではかなり機能を絞りました。会計ソフトでは当然ある「残高試算表」の機能もあえて付けていません。

会計簿記の概念にのっとって入力する仕分けの入力機能についても同様で、準備はしていますが、リリースはしていません。初めて業務ソフトを使う方に、「難しそう」と思われるよりは、まずシンプルに使い始めてもらって、「これなら使える」と思ってもらえた段階で機能を追加し、使いたい人だけその機能を使ってもらいたいと思います。

――すでにパッケージ版「やよいの青色申告」を使っているユーザーにはどのようなメッセージを伝えていますか?

岡本社長:弥生のパッケージ版青色申告ソフトを利用中の方は、2015年1~3月に関してはぜひそのまま利用して頂きたいですね。パッケージ版は確定申告の経験がある人向け、クラウド版はまったくの初心者向け。現時点では非常に対照的なソフトとなっているからです。

他社製品との一番の違いは「実際に使える」こと

――昨今、クラウド会計と呼ばれる製品が他社からも出ていますが、それら製品と比較しての弥生製品の強みは何でしょうか?

岡本社長:確定申告ソフトとして実際に使える、ということです。弥生では今回、「やよいの青色申告 オンライン」をクラウド会計とは呼ばず、クラウド申告ソフトと呼んでいます。申告ソフトということで、決算書や申告書の作成がいかにつまずくことなくできるかを意識しているからです。

会計ソフトでつちかった長年の経験により、分からない会計用語に関してはユーザーがすぐにその場で理解できるヘルプ機能も充実していますし、入力項目に関してはユーザーがその場で項目を自分で判断して入れてもらうだけでなく、基本的にソフトで判断できるものはソフトで判断したうえで、最小限、必要なものを入力してもらうようになっています。そうした使い勝手の部分は圧倒的に他社と異なると自負しています。あとは申告ソフトでは必須といえる控除額の自動計算機能も標準搭載している点も他社との差別化ポイントといえるでしょう。

あとは銀行・クレジットカードの自動取り込み機能です。個人事業主の方からよく聞かれる悩みで「事業のお金と個人のお金がすぐにバラバラになってしまう」というものがあります。それこそ、個人用の口座を自動取り込みで設定し、全部取り込むと大変なことになりますよね。個人事業主は、事業用のお金と個人用のお金を意識して別で扱う必要があります。「やよいの青色申告 オンライン」であれば、実務にのっとって、個人用と事業用のお金を分けて扱い、実務用だけ選んで取り込むことができます。

――最後に、今後のロードマップを教えてください。

岡本社長:まず、オンライン(クラウド版)については、新規市場を開拓するという意味でも引き続き機能強化を図っていきます。一方で従来のパッケージ製品についても、外部との連携サービス「YAYOI SMART CONNECT」に対応し、「Zaim」「MoneyLook」「Twitter」「Airレジ」「Misoca」といった各種クラウドサービスとの連携を実現するなど、クラウドの利便性を附加しています。クラウドストレージ「弥生ドライブ」については、2014年11月時点で11万ユーザーを超えるなど、急速な勢いで利用が進んでいます。

そういった意味ではクラウドはクラウド、パッケージはパッケージと分けてというよりは、弥生は当然パッケージも提供していきますし、クラウドの利便性も提供していきます。将来的には、クラウドとパッケージ(デスクトップ)をあまり意識せずに、社内にいるときにはパッケージ版を、出先ではクラウド版を使うといった利用シーンも構想にはあります。これは技術的なハードルもあるので、2~3年先の話にはなると思います。

――ありがとうございました。

岡本浩一郎代表取締役社長

弥生のクラウドへの本気度は今後も続く

マイナビニュースが2014年8月に行ったインタビューで、「来季は弥生のクラウドに対する本気度を実感していただけると思います」と話していた岡本社長。インタビュー中、あらためてクラウドに対する同社の戦略を聞くと「実績でいうとまだまだ現在進行形。青色申告という意味では来年の確定申告のシーズンで大幅に伸びるとは思います。弥生の青色申告は弥生会計と並んで弥生の代名詞的な存在なので、それがクラウドで利用できるのは、ユーザーから見ても非常に分かりやすい、第一歩になりました」と話していた。