ブリヂストンは10月31日、都内で会見を開き、パラゴムノキ由来の天然ゴムに代わる天然ゴム資源の研究に関する説明会を開催した。

同社は世界的な自動車台数の増加と持続可能な社会の構築の両立を目指し、パラゴムノキ以外からのタイヤ用天然ゴムの製造を目指した研究を長年にわたって行ってきている。その研究内容の1つが米国南西部からメキシコ北部の乾燥地帯が原産の低木である「グアユール」を用いたもので、米国に2012年に試験農場を、2014年に加工技術研究施設をそれぞれ立ち上げ、2015年までに試験生産を開始する計画を掲げている。

この加工技術研究施設「Biorubber Process Research Center(BPRC)」は無事に9月21日に開所式が開催され、2015年からグアユールを用いた天然ゴムの試験生産を開始する体勢が整ったこととなる。

ブリヂストンのタイヤ材料開発第一本部フェローを務める小澤洋一氏

同社タイヤ材料開発第一本部フェローの小澤洋一氏は、「今のままのエネルギーの消費ペースだと、新興国の成長により、資源の枯渇が問題となってくる。エネルギー単位の原単位の抑制と、資源消費の抑制をしつつ経済成長を実現していく必要が生じており、ブリヂストンは最終目標として、2050年ころまでにCO2の50%削減などを実現することで、持続可能な社会の実現に貢献していくことを目指している」とし、その1つとして、原材料ならびにその元となる資源そのものの持続可能性(サステナブル)の実現に向けたパラゴムノキを代替する天然ゴム研究が推進されてきたとする。

実は自動車のタイヤは目的に応じてさまざまな素材を組み合わせて製造されており、ゴムがそのうちの約6割を占める。そのゴムも天然ゴムと合成ゴムに分かれるが、天然ゴムは基本的にパラゴムノキなら得ていた。しかし、パラゴムノキは東南アジア地域に集中しており、資源保護という側面や、他地域での展開の難しさ、そして栽培サイクルが1本あたり25年という手間といった課題があり、そうした課題の解決を模索する一方、他地域で天然ゴムが作れる植物を栽培できないか、という研究が進められてきた。今回のグアユールは、米国テキサス州やメキシコなどの乾燥地帯に夏場自生する低背の植物。ゴムの生成方法は、パラゴムノキのように樹皮を削ってゴムを得るのが難しいため、植物体をそのまま刈り取って、バラバラにし、化学溶媒を加えることでゴムを取り出すといった流れとなる。この際、グアユールと化学溶媒の混ぜものは分離処理され、木質(おがくず)、樹脂、そして天然ゴムへと分けられる。また、化学溶媒もリサイクルに回されるという。

タイヤの構造と、材料の比率。天然ゴムはタイヤの1/4程度を占める材料となっている

グアユールはある程度の高さまで育つのに約3年かかり、まだ準野生種といったところで、品種改良の余地が大きいという。小澤氏は「目指すのは地域の栽培農家にとって魅力的な経済作物としての地位を確立すること」とし、例えばアリゾナ州では綿花がその位置にいるとする。

同社が現在グアユールを栽培している試験農場の広さは114haで、それを処理するBPRCでは、ゴムの品質のほか、品質を満たす加工プロセスの実用性、経済性や安全性といったことの確認が行われる予定。「例えば、暑かったり、寒かったりといった気候の変化と得られるゴムの量や品質の関係性や安全な連続運転が可能なのか、ゴムの品質をタイヤで検証するとどうなるのか、などなど、まだまだやってみないと分からないことが多く、地道に研究をしていく必要がある」とのことで、そうした細かな部分含めてBPRCで研究が行われていくこととなる。

グアユールは苗の栽培から収穫まで約3年の期間で済むが、これまでほとんど産業適用されてこなかったため、準野生種的な植物であり、改良を進める余地が大きい。また、BPRCでは木質と樹脂、天然ゴムが分離されるが、木質は燃料に、天然ゴムはタイヤに活用されるほか、樹脂はタイヤ以外の利用もパートナー企業などと協力する形で検討が進められているという

なお、今後は2015年にBPRCのフル生産とタイヤでの検証を実施するほか、2016年には実際に商用適用が可能かどうかの判断、ならびに同年末までに実用規模のプラントを建設するかといった次のステップに向けた検討を行い、最終的には2020年代前半に商用化を果たしたいとしている。

BPRCの概要とグアユール由来の天然ゴムにおける加工技術の課題。BPRCではこうした課題の解決に向けた研究が進められることとなる