電気通信大学は10月21日、兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」に同大学が建設した、燃料電池計測用のX線吸収微細構造(XAFS)ビームライン「BL36XU」に開発整備した、「2次元走査型顕微鏡XAFSシステム」を用いて、固体高分子形燃料電池触媒層のナノXAFS測定・解析に成功したと発表した。

大型放射光施設「SPring-8」およびXAFSビームライン「BL36XU」の概要 (資料提供:電気通信大学)

同研究成果は同大学燃料電池イノベーション研究センターの岩澤康裕 センター長・特任教授らの研究グループによるもので、独化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版に10月下旬に掲載される予定。

固体高分子形燃料電池(PEFC)は、エネルギー変換効率が高く、ゼロエミッションも可能なクリーンエネルギー発電装置として期待を集めており、2015年には燃料電池自動車の市場投入が予定されている。しかし、その実用化はまだ初期段階であり、本格普及に向けて電極触媒の耐久性向上を実現するために、劣化の原因とメカニズムの解明が強く求められているが、従来の方法では直接観察することができずにいた。

同研究グループは、新ビームライン「BL36XU」を用いた「ナノXAFS計測」という手法によって、燃料電池電極触媒であるカーボン担体上の2-3μmレベルのPtナノ粒子が酸化・溶出する様子を観測し、画像化することに成功した。これによって、燃料電池触媒の溶出・劣化が始まる特定部位と機構の一端が解明されたことになる。

Ptナノ粒子が酸化・溶出する様子をとらえた画像。Aの画像で赤い部分がPt部分、aの画像では劣化してしまっているのがわかる(画像提供:電気通信大学)

岩澤センター長は今回の成果について「今後の燃料電池本格普及のための高耐久な次世代燃料電池電極触媒開発に対して、サイエンスベースの指針を提供するものである」とコメントしている。

岩澤康裕 センター長・特任教授