IoT(Internet of Things)に注目が集まっていることで、MBaaS(Mobile Backend as a Service)へのニーズが急増しているという。日本発のグローバルMBaaSサービス「Kii Cloud」を提供するKii 執行役員 技術統括の石塚進氏は、その理由について「IoTとMBaaSの親和性にある」と話す。

IoTのトレンドを生み出す2つの流れ

近年IoTという言葉をよく聞くようになってきた。IoTとはさまざまな定義や捉え方があるが、おおよそ、コンピュータのような情報機器だけでなく、すべてのモノがインターネットでつながるようになり、それらが相互に通信して、これまでと違うサービスやビジネス価値を生み出すといった考え方、現象を指しているといえる。直訳で「モノのインターネット」などと訳されることが多い。

IoTの事例としては、電力プラントに設置した計測機器情報を分析して部品の故障予測に活用したり、自動車に搭載したGPSを追跡して通行可能な道路をマッピングしたりといったケースが引き合いに出ることが多い。機械(センサー)が生み出したデータを機械で処理・通信する「M2M」(Machine to Machine)や「センサーネットワーク」などと関連して語られることが多い。

こうしてみると、製造業や組み込み業など、ハードウェア業界との関係性が強く感じられる。しかし、IoTというトレンドは、決してそうした業界にとどまるものではないという。

Kii株式会社 執行役員 技術統括 石塚進氏

「アプリケーションやクラウド、モバイルといったソフトウェアとの結びつきは予想以上に強い」と石塚氏は指摘しつつ、さらに次のように強調した。

「IoTというトレンドには、大きく2つの流れがあると思っています。1つは、M2Mやセンサーネットワークのようなハードウェア業界からの流れ。もう1つは、モバイルアプリ開発やスマートデバイスといったコンシューマ系サービスやソフトウェア業界からの流れです。後者については、ウェアラブルデバイスがいい例だと思います。デバイスに搭載したセンサーから情報を得て、クラウド上で処理し、結果をアプリで表示したり、共有したりできるようになっています」

IoTというと、将来の話のように思えるが、スマートデバイスやウェアラブルデバイスのように、すでに我々にとって身近な存在になっているのが実情だ。そして、すでにお気づきのように、ハードウェアからの流れであれ、ソフトウェアからの流れであれ、共通しているのは、クラウドなどを使って、データやデバイスを管理するバックエンドが重要になるということだ。こういった点から、IoTとMBaaSの親和性はとても高いことが理解できる。

IoTとMBaaSにある強い親和性

MBaaSは、ユーザー管理やプッシュ通知、データ管理、位置情報などのモバイル開発に不可欠なバックエンドサービスをクラウドで提供するものだ。IoTとMBaaSは、どんな点で“似ている”あるいは“相性がいい”と言えるのだろうか。石塚氏はまず、「つなぐ」という行為の類似性を指摘する。

「スマートデバイスを利用するときは、まずアクティベートします。アクティベートによって、ユーザーとデバイスをクラウド上の管理システム上で紐づけ、ユーザーに合ったサービスを提供できるようにしています。バックエンド側からこの手続きを見ると、IoTとMBaaSはほとんど同じ処理になるのです」

MBaaSが提供するユーザー管理の処理は、IoTでのデバイス管理とほぼ同じということは、これまでのモバイルアプリ開発で培ったノウハウなどはそっくり生かすことができるということになる。さらに石塚氏は、データ管理にも親和性があるという。

「MBaaSのデータ管理では、ユーザーのプライベートな領域にデータを安全に格納できるような工夫がされています。ユーザーをデバイスに置き換えると、その仕組みがそのまま利用できるようになるのです。またIoTでは、膨大なデータをリアルタイムでストリーム処理できるようなテクノロジーに注目が集まりがちですが、実際にはセキュリティを確保して適切に管理する仕組みが重要になってくるのです」

たとえば、医療、ヘルスケアといった分野ではどうだろうか。個人情報やプライバシー情報はクラウド上で厳重に管理されるような仕組みがなければ、サービスとして成り立たないだろう。また、家庭内で複数のスマートデバイスを利用するシーンを考えても、パーソナルなデータ管理は不可欠になってくる。

技術的なところでは、通信に利用するプロトコルやAPIの共通性も指摘できるという。IoTにおいて、デバイス同士やクラウドとの連携には、REST APIなどの標準的なWeb APIが使用されることが多いという。モバイルアプリ開発で、サービスやシステムを連携させるノウハウは、IoTでも生かせるというわけだ。

こうなると、IoTを疎遠に感じていたようなモバイルアプリ開発者にとっても、決して他人ごとではなくなってくるだろう。フロント側の開発の知識やスキル、ノウハウはIoTでも生かすことができる。アイデア次第で、「新しいIoTサービス」を立ち上げるといったことも視野に入ってくるのだ。

モバイルアプリ開発者からのニーズも急増

石塚氏によると、実際そういった「新しいIoTサービス」を立ち上げるニーズは急増しているという。

「製造業や組み込み業の方から、IoT関連のサービスを作っているが、Webサービス側がよくわからないので、Kii Cloudを利用したいという相談をいただくことが増えています。同じように、これまでモバイルアプリ開発に携わってきたエンジニアから、IoTサービスを作りたいがどのようにすればいいかといった問い合わせも増えています。こういった背景から、非常に大きなうねりになっていることを実感しています」

石塚氏がそう語るように、IoTとMBaaSは、いまダイナミックな動きを見せている。そのような中、石塚氏が今後ますます重要になると指摘するのは、アプリやUI、デザインといったフロントの部分だという。逆説的ながら、IoTのようにモノの存在にフォーカスがあたると、ユーザービリティやデザイン性といった面の重要性が増す。たとえば、ウェアラブルデバイスなどは、テクノロジーというよりもデザインがものをいう商品だ。

「UIやアプリデザインといったフロントの部分が得意なモバイルアプリ開発者の重要性が増しています。そもそも、MBaaSは開発者がバックエンド開発の負担を減らし、フロント部分に集中できるようにすることに力を注いでいます。IoTが進展し、デザイン性が重視されるようになると、ますますフロント側の負担は増えていくことになるでしょう。逆にいうと、我々がMBaaSとしてIoTを支えることができれば、より多くの開発者の負担を減らすことにつながります」(石塚氏)

実際にいま、急増するニーズに対応すべくIoT関連の機能を急ピッチで開発しているという。

「まずは、デバイス管理やデバイス向けのプッシュ通知をSDKやCのライブラリを含めて提供します。その後、デバイス向けAPIは徐々にMQTTなど軽いプロトコルに移行する予定です。Kii Cloudは現在REST APIベースですが、IoTデバイスにはHTTPは重いので、それらの負担を軽減する必要があります。また、将来的にはデバイスからのデータの集計機能なども提供しようと思っています」(石塚氏)

このように書くと将来の話に聞こえるが、実は、MBaaSを活用したIoTの事例は続々と登場している。むしろユーザーのニーズが先行し、それに応えるようにKii Cloudの機能開発を急ピッチで進めているというのが現状のようだ。では、どんな事例があるのか。次回は、そうした事例を詳しく紹介しながら、KiiがIoTに対して、どんな取り組みを行っているかなどにも触れていく予定だ。