アドビ システムズは9月4日、2014年7月に代表取締役社長に就任した佐分利 ユージン(Eugene Saburi)氏の就任記者会見を行った。佐分利氏は前職のマイクロソフトで19年間、エンタープライズサーバ、クラウドサービス、モバイルデバイスなどの領域においてリーダー職を務めた経験があり、2006~2009年までは最高マーケティング責任者(CMO)として国内のマーケティングやオペレーションを統括してきた人物である。

佐分利氏は会見の冒頭、アドビ システムズへの転職を決意した理由として「マーケティング向け製品を提供していること」「米国でサブスクリプションモデルに成功した企業の1つであること」「会社の原動力である人物(社員)に惹かれたこと」の3点を挙げた

佐分利氏がミッションに掲げるのは、同社のスローガンである「世界を動かすデジタル体験の提供」を通じてデジタルマーケティングを日本企業の経営事項にすること。しいては「日本市場の活性化に寄与していきたい」と抱負を話した。

マーケティングプロセスを包括的に支援

同社ではクリエイター向けの「Adobe Creative Cloud」とデジタルマーケティング向けの「Adobe Marketing Cloud」を提供しており、グローバルでの売上は約40億ドルに上る。「コンテンツ制作から最適化まで、企業のマーケティングプロセスを包括している唯一の企業だ」(佐分利氏)

Adobe Creative CloudとAdobe Marketing Cloudの売上比率はグローバルで6:4。一方、国内ではAdobe Marketing Cloudの割合が他国に比べて低いことから、まずはデジタルマーケティングの認知拡大に向けた啓蒙活動に努める方針だ。

主な施策として「顧客の業界ニーズに合わせたソリューション提案」「顧客ニーズに合わせた製品ポートフォリオの強化」「導入前後のコンサルティングサービス提供」「国内におけるデジタルマーケティングの認知を理解促進」「パートナーとの協業強化」の5点を予定している。

佐分利氏は会見の中でデジタルマーケティングを成功させる3要素として「プロセス」「人材」「技術」の3点を紹介。同社製品であればそのすべてを包括できるとアピールした。実際、インターネット通販を手掛ける国内企業トップ3社や、ベスト国内ブランドトップ10企業のうち7社がAdobe Marketing Cloudを利用しているという裏付けもある(日本流通産業新聞 通販・通教・EC売上高調査〈13年度版〉、およびインターブランドJapan's Best Global Brand 2014より)。

アドビが提唱するデジタルマーケティング成功の要因

デジタルマーケティングが日本企業にもたらす可能性は?

8月に日本オラクルがマーケティングプラットフォーム「Oracle Marketing Cloud」を発表し、日本市場での本格参入を発表したのをはじめ、大手ITベンダーがデジタルマーケティング市場への参入や、買収によるソリューション拡大を進めている。

これに対しアドビ システムズのマーケティングマネジャーは8月に行った戦略説明会の中で「(他社よりも)3年先を行っている」と語っていた。同社のデジタルマーケティング市場への参入は、2009年のSiteCatalystを提供するOmniture買収を大きな節目とする。「(アドビは他社と較べて市場への)取り組みが早く、製品統合に強みを持っている。ユーザー行動などをはじめとしたデータを取得し、そのデータに基づいて各チャネルに対して施策を打つなど、セグメントを見つけ出して広告を出稿するといったようなソリューション間のデータ連携が強みとなっている」。

加えて、同社が従来より提供するクリエイティブ製品も強みとなるという。「マーケティング活動とは消費者を惹きつけて買ってもらうという活動。それぞれ異なるニーズを持っている消費者に対し、いかにクリエイティブを出していくかが重要となる。その中で、製作会社やクリエイターとの企業のマーケターが密接に連携してキャンペーンを展開していくかが肝。それらのデジタルアセットとマーケティング活動を密接に連携できるようにしているのは、アドビだけ」(いずれも同マネジャー)というわけだ。

MM総研の調査によると、2013年度の国内のEC市場規模は約15.9兆円で、国内消費者市場283.7兆円に占める割合は5.6%。EC市場の拡大は今後も続くと見られ、デジタルマーケティング、またデジタル以外のチャネルとも統合したオムニチャネルがトピックともなっている。

デジタルマーケティングの分野に参入した同社は、Omniture買収後もデジタルマーケティング製品のポートフォリオを拡大している。現在は6つのソリューション群としてAdobe Marketing Cloudを提供中だ。同社は「包括的なソリューションによってデータとインサイトを組み合わせ、結果を可視化し、投資効果を最大化できる」とその特徴を謳うが、各社が参入する中、新たに代表取締役社長となった佐分利氏のもとでその真価を発揮できるかが、アドビのチャレンジの1つとなる。