京都大学は7月28日、物体からの熱輻射を超高速に制御することに成功したと発表した。

同成果は、同大 工学研究科の野田進教授、浅野卓准教授、井上卓也博士課程学生らによるもの。詳細は、英国学術誌「Nature Materials」のオンライン版に掲載された。

一般に、物体を加熱すると、物体と光の相互作用に基づいた熱輻射と呼ばれる現象が生じ、物体から光が放射されるようになる。白熱電球や太陽などは、この現象に基づいて光を放射する。しかし、一般に、加熱された物体からの熱輻射をオン・オフするためには、物体自体を温めたり冷やしたりする必要があるため、そのオン・オフには数秒から速くとも1/100秒程度かかるという問題があった。

今回、研究グループは、物体の温度を上げたり下げたりするのではなく、物体と光の相互作用そのものを電気的に変化させることにより、熱輻射を超高速に制御するという全く新しい方法を見出したという。その結果、物体からの熱輻射のオン・オフ時間が、従来の6000倍以上高速にできるようになった。この成果は、物理的に興味深い発見であるだけでなく、各種の環境モニタやバイオ分析用の新しい赤外線光源の実現にもつながり、さまざまな新しい応用をもたらすことが期待できるとコメントしている。

(a)電圧により輻射パワーを変化させることができる熱輻射光源の模式図。(b)量子井戸内に電子が存在する場合(左)と存在しない場合(右)の熱輻射発生の模式図。量子井戸には、離散化された2つのエネルギー状態が存在し、電子は加熱されるとこの2つのエネルギー状態間の遷移を繰り返す。(c)PNダイオードに電圧を印加した際の量子井戸内の電子密度の変化。電圧を印加すると、量子井戸に存在する電子数が減少する。(d)作製光源から生じる熱輻射パワーが印加電圧により変化する様子