現実のITシステムにおける課題解決にパブリッククラウドを活用する場合、どういった考え方で必要リソースを見積もればよいのか、またどういった機能が使えて、どれくらいの予算感になるのか?

そんな”本気の疑問”に応えるため、ニフティクラウド協力のもとで始まった本企画。すでに、マイナビ自身のシステムを例として、「第1回 マイナビ賃貸」「第2回 マイナビニュース」の2回にわたってシミュレーションを進めてきた。最終回となる今回の対象は、マイナビの社内システムだ。

社内システムのパブリッククラウドへの移行が進んでいる

近年、社内システムのクラウド利用が急激な広がりを見せている。従来は、メールや営業支援システムなど限定的な範囲での活用だったが、最近では、販売管理や調達、会計といった基幹システムまでクラウド化されるケースが増えているのだ。こうした背景には、クラウドに対する意識の変化が見てとれる。これまでは「パブリッククラウドを社内システムで利用するのは不安」という、クラウドのセキュリティに心理的な不安を感じている企業が多かったが、実際にWebサービスなどでクラウドを利用してそのセキュリティの高さを実感した企業では、この意識が変化しつつあるのだ。

クラウド本部 クラウド事業部 クラウドパートナー営業部
平岡拓海氏

社内システムをクラウド化する最大の利点は、インフラの保守・運用にかかる手間の削減、そして可用性の高いシステムをビジネスの状況にあわせて柔軟に構築・変更できる点にある。したがってベンダーの選定にあたっては、サーバの立ち上げや変更、日々の運用がスムーズにできるかどうかも確認する必要があるだろう。

今回アドバイスをいただくのは、クラウド本部 クラウド事業部 クラウドパートナー営業部の平岡拓海氏。平岡氏は、社内システムのクラウド移行状況について「昨年後半から、移行のご相談が増えています。情報系システムから基幹システムまで、企業規模に関係なく様々なケースが出てきています」と話す。

事例としては、インフラの老朽化とグローバル化に対応するため、共通業務基盤をニフティクラウドに移行した企業のケースがある。同社はもともとニフティクラウドのパートナー企業提供のグループウェアやデータベースをオンプレミスで使っていたが、それら既存資産をそのまま生かすかたちでクラウドに移行した。インターネットVPNと組み合わせることで、社外から安全にリモートアクセスできる環境も整備したという。

「コスト削減という目的だけでなく、外出先から基幹システムへのアクセスを可能とするといった、自由な働き方というコンセプトを実現するためにクラウドを採用するケースも増えています。細かな構成は各社のポリシーに依存する部分が多いのですが、最大限応えられる体制を持っているのがニフティクラウドの大きな特長です」

大きな特長と話すその1つが、180社におよぶパートナーとの連携だ。ニフティクラウドでは、アプリケーションベンダーやソリューションベンダーと協力して、社内システムのクラウド移行に対する細かなニーズに対応できる体制を整えている。

基本パターンをもとに条件を変えて見積もりをシミュレート

今回登場するのは、マイナビの社内システム担当者である。前述のようなクラウド化の背景から、自社内の情報基盤をクラウド化するとどの程度の予算感、工数になるのか、というのがテーマである。

担当者は次のように話す。

「社内システムのクラウド化に関しては世間の議論が分かれるところでしょうが、基本的には、クラウドに移行できないシステムはないと考えています。クラウドの技術が進歩したことで、障害やセキュリティに不安を感じることはほぼなくなりました。パブリッククラウドでこれからテーマになるのは、オンプレミスと比べた場合の管理画面の使いやすさ、運用のしやすさ、環境を構築したあとの柔軟性などだと考えています」

第3回登場担当者
社内システム担当

社内システムといっても、業務により要件が異なる。そこで、ニフティに相談するにあたっては、情報共有系システムを想定したモデルケースを作成。このケースをもとに、見積シミュレータ上で条件を変えて比較検討を進めることにした。

「実際のシステム構成は、業務によって千差万別です。基本的な例として、データベースも搭載した簡単なWebアプリケーションサーバ1台の構成(パターン1)と、Webサーバ/Webアプリケーションサーバ2台、データベースサーバ1台、これらをロードバランサで負荷分散する構成(パターン2)の2つを想定してみたいと思います。前者は20人程度の社員が外出先からアクセスするシステム、後者は3000人程度の社員が社内からアクセスするシステムを想定しています」(社内システム担当)

具体的なサーバのスペックは、以下のとおり。

パターン1(20人程度の社員が外出先からアクセスするシステム)

CPU メモリ ディスク容量 OS
Webサーバ/APサーバ/DBサーバ 1GHz ×1相当 1GB 50GB Linux

パターン2(3000人程度の社員が社内からアクセスするシステム)

CPU メモリ ディスク容量 OS
1号機(Webサーバ/APサーバ) 3GHz × 2相当 4GB 50GB Linux
2号機(Webサーバ/APサーバ) 3GHz × 2相当 4GB 50GB Linux
3号機(DBサーバ) 3GHz × 4相当 16GB 100GB Linux

もちろん、業務によってはここまでのスペックが必要ないケースも、もっと強力なスペックが必要なケースもある。その辺りは、ニーズに応じて対応させていくことにする。このほか、留意しているのは、社内システムとクラウドをネットワーク的にどうつなぐかという点だ。

「社内システムですから、社外からのアクセスについては、システムの重要度に応じてきっちりと制限をかけたいケースも出てきます。一般的には、会社のIPアドレスからしかアクセスを認めないという制限のしかたもあれば、インターネットVPNを使った制限が必要な場合もあります。また、専用線での閉域網を構築したい場合もあります」(社内システム担当)

こうした要件をもとに、ニフティ担当者からアドバイスをいただきつつ、見積シミュレータを使って概算していった。

実際にはカタログスペック以上の性能がでることも

まず、サーバスペックについては、料金一覧にあるとおり、CPUは、miniの1GHz以外は3GHzで固定されている。

パターン1のCPU 1GHz × 1相当メモリ1GBとしては、1vCPU(1GHz)・512M Bの「mini」を、パターン2のCPU 3GHz × 2相当メモリ4GBのAPサーバとしては、2vCPU(3GHz)・4GBの「medium4」を2台選択することになる。また、パターン2の3GHz × 4相当メモリ16GBのDBサーバとしては、4vCPU(3GHz)・16GBの「large16」を選択することになる。

パターン1で選択したサーバ

パターン2で選択したサーバ

ただ平岡氏は、こうした選択方法について「必ずしもスペックにきっちり合うように選ぶ必要はありません」とアドバイスする。というのは、ニフティクラウドは作成したサーバのスペック変更が数分で実施できるため、実利用開始してから負荷に応じて、スペック、構成を変更することで、適切な価格で利用できるからである。また他クラウドサービスと比較して、同カタログスペックの場合、性能が高いことが数多くの顧客より評価されているようである。

実際に、ニフティがベンチマークツール(UnixBench、dbench、iperfなど)を使って、CPU性能やディスク性能、ネットワーク性能を他社クラウドと比較したところ、同じカタログスペックにも関わらず、数倍の性能がでていたことが確認できたという。性能評価の内容は、ニフティクラウドユーザーブログでみることができる。

このため、「利用開始前にサーバスペックを確定させるのではなく、利用開始後に、実際に必要な分だけを利用するという考えでご利用いただいた方が、結果的にムダなコストを削減できて有利になる」(平岡氏)のだ。たとえば、APサーバの負荷が小さい場合、「medium4」ではなく、CPUコアが少ない「small4」やメモリが少ない「medium」で間に合う可能性がある。同様に、DBサーバも「large16」ではなく、「medium16」や「large」で間に合う可能性があるという。

ニフティクラウドに用意されたサーバのスペック

標準でLinux 30GB、増設ディスクは100GB単位で拡張可能

ディスクは、Linuxの場合で30GB、Windows系の場合80GBが標準で提供される。増設ディスクは、100GB単位で追加でき、フラッシュドライブ(SSD)の利用も可能だ。

パターン1では100GBのディスクを増設。パターン2では、APサーバは標準の30GBで済ませ、DBサーバに200GBの追加ディスクを加える構成とした。また、OSについてはCent OS、Ubuntuであれば無料で利用できるので、それを選択した。

パターン1の増設ディスク

パターン2の増設ディスク。こちらはDBサーバ用

ロードバランサ、VPNは業務要件に応じて選択する

ロードバランサは、L4(レイヤー4)とL7(レイヤー7)に対応したもの2種類から選択して利用することができる。L4ロードバランサは管理画面から設定、帯域変更が可能となっている。一方で、L7ロードバランサは、仮想マシンにソフトウェアをインストールして利用するタイプである。L4ロードバランサに比べて自由度が高いのが特徴である。

また、ニフティクラウドには様々な接続方法も用意されている。要件に応じて、VPN、閉域網、専用線が利用できるようである。 VPNサービス「シンプルVPN」は、簡単接続を特長としており、ニフティが提供するサービスアダプタ(小型のVPN装置)を設置した拠点同士や、ニフティクラウドのサーバを安価でセキュアにつなぐことができるとのことである。

パターン2において、30MbpsでL4ロードバランサを選択

パターン2では、インターネットVPNも選択している

なお、ネットワークについては、グローバル側通信(インターネット側)とプライベート側通信に分かれており、料金は、プライベート側は無料、グローバル側も転送量10TBまで無料という料金体系だ。ベンダーによっては、プライベート、グローバルに関係なく転送量に応じて従量課金になるケースもあるので、無料であるメリットは大きいだろう。

また、「社内システムなので、プライベート側だけの通信で済ませ、インターネット側からのアクセスは必要ない」という場合、グローバル側のNICを外してしまうこともできる。これにより、より通信環境の堅牢性を高めることが可能だ。

国産クラウドの強み

これらをベースに、見積シミュレータで見積もりをとったところ、パターン1では月額9800円、パターン2では月額21万9350円という結果となった。

パターン1の見積もり結果。20人程度で情報共有に利用するWebアプリケーションを想定

パターン2の見積もり結果。3000人の社員が利用する社内システムを想定

この結果に対し、社内システム担当は次のようにコメントした。

「クラウドは価格だけをみると割高にみえます。しかし、オンプレミスの場合は、監視や運用、機器交換、搬入、搬出の人件費など、目にみえないコストがかなりかかっています。コスト比較では、それらを踏まえることが大切ですよね」

また、管理画面の使い勝手やシステム構成の柔軟性についても「サーバの立ち上がりもスピーディで、管理画面も使いやすそうに感じます」とコメント。そのほか、システム構築や変更の柔軟性という点で、専用線への対応やパートナーと連携したSIソリューションの提供、国内を基盤をとしたサポート体制の充実などにも関心を示していた。

平岡氏によると、データセンターの堅牢さも既存顧客から支持を得ているポイントの1つだという。「東日本大震災のときも、震災がきっかけとなって停止したシステムは1件もなく、顧客の業務継続を支援することができました。ネットワークはもとより、サーバ、ストレージなどすべての機器が冗長化されており、単一ポイントがない構成であることも特長の1つです」とのことだ。

見積シミュレータをはじめ、さまざまなツールを使って相談にのってくれる

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前述のとおり、クラウドのセキュリティに対する不安が払拭されつつある中で、パブリッククラウドは、Webサービスの用途だけでなく、社内システムの構築にも欠かせない存在になってきた。しかし一方で、それでもまだ導入に踏み切れない企業も多いようだ。

そうした中でニフティクラウドは、日本企業の業務やシステムに通じたパートナーを豊富に抱え、強固なエコシステムを築き、企業のクラウド導入を支えている。さらに、24時間365日利用できる無料の電話窓口など、サポート体制も充実している。ニフティクラウドは、企業がいつでも相談でき、安心して利用できる身近なクラウドパートナーとして今後ますます存在感を高めそうだ。

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