調査委員会委員長である小林英明氏(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)

早稲田大学(早大)は7月17日、2014年3月31日付で理化学研究所(理研)の小保方晴子研究ユニットリーダーの博士学位論文に関する調査を行うために設置した「大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」による調査報告書が、同日、同大総長の鎌田薫氏に提出されたのを受け、調査委員会委員長である小林英明氏(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)による説明会を開催した。

当初、委員会による調査は6月末をめどに終了する予定であったが、小保方氏へのヒアリングが体調などもあり、実施が遅れたことや、資料や関係者が米国などに分散しており、回収に時間がかかったことなどから、7月16日まで伸びたという。また、委員会は小林氏のほか、医学博士号を持つ国立大学の名誉教授、医学博士号を持つ東京大学の名誉教授、医学博士号を持つ早大の教授、政治学博士号を持つ早大の教授の合計5名で構成されているとする。

調査委員会が検証を行った結果、当該論文では、「著作権侵害行為であり、かつ創作者誤認惹起行為といえる箇所」が11カ所、「意味不明な記載といえる箇所」が2カ所、「論旨が不明瞭な記載といえる箇所」が5カ所、「Tissue誌論文の記載内容と整合性がない箇所」が5カ所、そして「論文の形式上不備がある箇所」が3カ所あったことが認定された。また、当該論文には多数の誤字脱字などもあったと調査報告書には記載したという。

ちなみに、小林氏は、今回の報告書では「剽窃」や「盗用」といった言葉は、定義が明確ではないことから使用していないとするほか、「著作権侵害行為であり、かつ創作者誤認惹起行為といえる箇所」の主な個所は「序章」「リファレンス」「Fig.10」の部分で、リファレンスとFig.10については過失であるが、「不正行為」であると判断したとするが、残り4種類の認定については、「不適切な行為」とし、不正行為という定義には当てはまらないという考えを示した。

調査委員会が定義した「不正行為」とは、故意・過失を問わない「違法行為」と人と人などの信頼関係を裏切る行為である「信義則違反」が組み合わさったものであり、片方だけでは不正行為とは呼べないとする

また、5章構成の博士論文の中で、序章である1章以外は実験を元に記述されたもので、2章から5章ともに、実験そのものはTissue誌論文をもとに記載されているものであったり、ハーバード大学の関係者や山梨大学の若山教授が実際にともに実験を行ったり、資料を有していることから、実際に実験が行われたものと認定したほか、小保方さんもかかわったTissue誌論文からの転載も共著者がOKを出しており、問題がないことも判明した。

ただし、その場合、博士論文にTissue誌論文からそのまま内容を持ってくれば良いのに、その整合性がつかないところがあり、結果として不適切なものとなっていることも確認。これは、小保方氏がずさんなデータ管理を行っていたこと、注意力が不足していたこと、そして博士論文作成に対する真剣さが欠如していたことなどが要因となっていることが考えられるとする。

小保方氏は、今回問題となった博士論文は論文作成初期段階のものが誤って製本されたとしているが、これについては、早稲田大学の博士学位授与のシステムを理解する必要がある。同大では、まず学位申請者による申請をもとに主査と副査が査読をした後、オープンな場で発表を行う「公聴会審査」と、その審査を元に教授陣などが合否の最終決定を下す「審査分科会」の2つの審査が行われるが、分科会は、主査および副査からの合否の進言を受けて、決定するという機関で、実際にそこで話し合いが行われることはほぼないという。

また、同大のシステムとして、公聴会で用いられた論文と、分科会で用いられる論文が必ずしも一致するとは言えないという問題も浮き彫りとなった。というのも、公聴会では、バインダーに収めた状態で審査が行われるが、分科会の際には、それが場合によっては修正され、その後、製本された形で提出される。小保方氏の場合、2011年1月11日に公聴会が行われ、その数日前に、ほぼ完成した論文が主査、副査に渡されていた。分科会は同2月9日に開催されたが、その間、論文はバインダーに閉じられた状態で小保方氏に預けられ、自らの手で印刷所に持ち込み、製本して、分科会前日の2月8日に提出されたという。つまり、公聴会で使用された論文と、分科会で確認される論文が一致しないという可能性が生じることとなっていた。

結論として、公聴会の資料に存在するものが製本されたものにはないことなどから、当該論文は公聴会時前の草稿で、完成版が製本されたわけではない、という認定がなされたとした。

ただし、小保方氏が真に提出しようとしていたと主張する論文が、今になって提出されたものの、それが当時、提出するべき論文であったものと同じであると考えるには証拠が不十分であることから、種々の事情を踏まえた結果、「真に最終的な博士論文として提出しようとしていた博士論文には、リファレンスについては著作権侵害行為等がなく、Fig.10については存在していなかったこと」、つまり「当該博士論文において、リファレンス、およびFig.10が著作権侵害行為等にあたるとされたのは、製本・提出すべき博士論文の取り違えという小保方氏の過失によるもの」という認定を行ったとする。

調査委員会ではこうした認定の結果、当該論文の内容の信ぴょう性および妥当性は著しく低く、仮に博士論文の審査体制などに重大な欠陥、不備がなければ、同論文が博士論文として合格し、小保方氏に博士学位が授与されることは到底考えらないとしているが、早大が定める学位取り消し規定においては、法律要件であるため、その要件に合致しなければ簡単に取り消すことができないことを踏まえ、今回の結果を検討したところ、問題とされた箇所は、学位授与に一定の影響を与えたものの、実際の実験を元に記述した箇所に、盗用などの不正が行った形跡がないことから、「重要な影響を与えたとは言えないため、因果関係がなく、不正な方法で学位を授与されたことにはあたらない」との判断を示したという。

「不正な方法」によって学位を授与されたという因果関係が今回の調査からは見当たらなかったことから、学位取り消し要件には該当しないという結論に至ったとする

ただし、「学位取り消し要件に概要しないと判断されたからといって、この問題点の重大性を一切低減するものではない」とするほか、小保方氏を十分に指導できなかった大学側にも相応の責任があるとしており、主査と副査、そして大学の制度上、運営上の不備にも言及し、大学も、学位を授与する側としての責任の重さを認識すべきであるとしている。

なお、早大では、今回の調査報告を受けて、改めて大学としての検討を行っていくとしており、大学としての結論がまとまった時点で、改めて説明の機会を設ける予定としている。