愛する娘は、バケモノでした。――この衝撃的なキャッチコピーの映画『渇き。』(6月27日公開)で加奈子を演じた女優・小松菜奈は、本当に"バケモノ"なのかもしれない。同作は、作家・深町秋生の『果てしなき渇き』(宝島社)を原作に、元刑事のロクデナシ親父・藤島(役所広司)が、失踪した娘・加奈子を行方を追う物語。娘の交友関係をたどっていく先々で次々と「知らない加奈子像」が明らかになり、やがて藤島は暴走。周囲の人間も彼女の存在に翻弄されていく。

小松菜奈
1996年2月16日生まれ。東京都出身。身長167.5cm。2008年からモデルとして雑誌を中心に活動し、多数のCMやPVに出演。オーディションにより、本作でスクリーンデビューを果たす。10月11日に公開される、熊澤尚人監督作『近キョリ恋愛』で山下智久と共演する。
撮影:荒金大介(Sketch)

役所広司、妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、中谷美紀、オダギリジョー、國村隼。彼らが演じる役柄に共通するのは"狂気"だが、小松が演じた加奈子はさらに不気味さを身にまとった"規格外の悪"を印象付けている。今年高校を卒業した18歳の小松は、本作が長編映画デビュー。彼女を見出した中島哲也監督を、撮影後に「女優とは違う技術を持っている人」と言わしめるほどの存在感を残した。

今回のインタビューで小松と対面し、静かな空間の中で1対1で話していると、この『渇き。』の世界に迷い込んだような錯覚に陥るが、時折笑顔を見せると等身大の少女の姿が見え隠れする。大役のプレッシャーと演技の葛藤。撮影現場で流した"2つの涙"は、彼女の人生に新たな兆しをもたらしていた。

――こうして対面して思うのは…まずは恐ろしいなと。

アハハハッ、そんなことないですよ(笑)。

――意気込んでオーディションに臨みつつも、自分が決まった時は信じられなかったそうですね。

この役をやりたいというよりも、中島監督がいるということに緊張していて。映画のオーディションもその時は久しぶりだったので、あまり考えることもできずに行ったようなことを覚えています。2次審査まであって、1次審査は女の子4人でした。1次審査に中島監督はいなかったんですが、2組に分かれてその場で悪口を言い合って喧嘩したり、ほめて笑ったり。2次審査は監督がいて、まず1人ずつ面談。それからまたペアになって、つかみあって髪の毛を引っ張り合うくらいの勢いでやった後に、爆笑の演技をしたりしました。

――信じられなかったということは、手応えがなかった?

全くなかったですね。みんな緊張してるのは同じなんですけど、やっぱり演技できる人たちが集まってたので、自分が一人だけできなくて…。何回もやらされたんですが、恥ずかしくてなかなか感情を出せなかったので、自分が加奈子役に選ばれるなんて全然思えませんでした。

――共演には名だたる俳優陣がずらり。かなり追い込まれたのでは。

演技も初めてでこんなすごい役者さんたちが集まっている中、役柄的にもいちばん上にいなければいけない存在なので、そういうのを考えると毎日寝れなくて…とにかく毎日必死でした。

――中島監督は現場では厳しい方だと聞くのですが、実際はいかがですか。

私もオーディションに行く時からそれを聞いていました。「怖いらしい」とか、「撮影に入るととにかくヤバイ」とか(笑)。だから、オーディションで話しかけられるのもビクビクしてて。でも、リハーサルの時に芸人さんのストラップをくださって、ガチャガチャが趣味らしいんですよ(笑)。私は、バナナマンの日村(勇紀)さんをいただいました。

――現場ではどのような演技指導があったのでしょうか。

映画に入る前の演技レッスンでは、基礎的な喜怒哀楽をやりました。でも、基礎的とはいっても爆笑や大泣きだったり。役柄については、監督と何度も話し合いました。監督自体も「加奈子」という役柄のことが分からなかったみたいで。

――小松さんのブログにもそんなことが書いてありましたが、今はいかがですか。

普通の感情じゃないですし、こんなことできるわけないですし…加奈子としてそのような状態になった瞬間がどこなのか…ここかなっていうところはありますけど、謎な部分がまだあります。