アルツハイマー病の発症を抑制するタンパク質を、滋賀医科大学分子神経科学研究センターの西村正樹准教授と遠山育夫教授らが発見した。有効な治療薬が少ないアルツハイマー病の治療法開発戦略の新しい手がかりになりそうだ。東京都健康長寿医療センターの村山繁雄部長との共同研究で、6月4日に英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

図. アルツハイマー病の原因となるAβの代謝経路と、新しいタンパク質ILEIの作用(提供:滋賀医科大学)

老年期認知症のアルツハイマー病は、超高齢社会を迎えて、世界的に急増しており、その予防や治療は人類的な課題になっている。アミロイドβ(Aβ)が年齢とともに長年、脳内に蓄積して凝集し、認知機能障害を次第に起こすことがわかっている。このため、Aβの産生阻害や分解排出促進、凝集阻害などの物質が創薬の対象になり、臨床試験も世界中で実施されたが、効果が十分でなく、副作用などもあって、治療薬の開発の大半は挫折した。

研究グループは、前駆体タンパク質(APP)からAβをつくる最終段階の酵素、γセクレターゼの複合体から新規活性物質のILEI(アイレイ)を見いだした。このILEIは脳の神経細胞から分泌されるタンパク質で、Aβ産生を約30%減少させることを、ヒトの培養細胞の実験で確かめた。逆に、ILEIを発現しないようにすると、Aβ産生は約50%増えた。Aβ産生直前の前駆体を不安定化して、Aβを減らすという作用の仕組みも突き止めた。

アルツハイマー病患者の脳の解剖では、ILEIのレベルが、認知症のない人々に比べて低下していた。アルツハイマー病モデルマウスに ILEI を強制的に発現するよう遺伝子操作すると、発症が抑制されることも実験で示した。この動物実験で副作用はなかった。

西村正樹准教授は「この新しいタンパク質を機能的に補充したり、発現を誘導したりすることで、Aβ産生を抑えて、発症を防げる可能性はある。アルツハイマー病の治療法開発の新しい戦略になりうる」と話している。

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