岡山大学(岡山大)は5月29日、心臓の「介在板」に局在する6回膜貫通領域を持つ陽イオンチャネルの「TRPV2(Transient receptor potential cation channel subfamily V member2)」が、心臓の構造や機能を維持するために必須の分子であることをメカニカルシグナルを利用して明らかにしたと発表した。

成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科の片野坂友紀 助教と成瀬恵治 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、5月29日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

心臓は、いうまでもなく全身の臓器へ血液を送るポンプの役割を担う。そのため、これまた説明するまでもないが、収縮と弛緩を繰り返すことで常時メカニカル的なストレスにさらされた状態にある。また心臓はただ一定のリズムや圧力で血液を送り出しているだけでなく、血圧などの血行動態の変化に応じて形状や収縮力を変えてポンプとしての仕事を一定に保つ能力も持つ。しかし、その肝心の血行動態の変化を感知する「機械刺激受容体(メカノセンサ)」が実は明らかになっていなかった。よって、当然ながら心臓の機能を一定に保つこの仕組みもこれまで不明だったのである。

心臓が弛緩と収縮を繰り返してポンプとして機能できるのが、心臓を構成する心筋細胞のおかげだ。同細胞は、細胞間で機能的・電気的に連絡していることから収縮と弛緩を同期させることができ、その結果、安定したポンプとして働くことが可能となる。心筋細胞同士の連絡部位が介在板と呼ばれ、隣り合う細胞を機械的・電気的に繋ぐ役割を担う分子が集積している点が特徴だ。そして、介在板に局在するメカノセンサ候補分子として目されているのがTRPV2である。

そして片野坂助教らは、介在板に局在するTRPV2を発現抑制するマウスを開発。このマウスでは介在版構造が乱れており、重篤な心不全が引き起こされることが発見された。つまり、TRPV2が心臓の構造や機能を維持するために必要不可欠であることを示したのである。また、メカニカルストレスに応じてTRPV2を介した「IGF受容体/PI3/Aktシグナル経路」が活性化することが、心筋細胞の構造や機能を維持する仕組みの1つであることも示された。

臨床で見られる心不全発症の経緯や原因はさまざまだが、唯一の共通ルートは血行動態負荷であることが知られているという。今回の成果が、血行動態変化により引き起こされる心肥大や心不全発症の仕組みの解明に繋がることが期待されるとしている。

今回の成果をまとめた模式図