産業技術総合研究所(産総研)は5月22日、高輝度光科学研究センター(JASRI)との共同研究の成果として、カーボンナノチューブ(CNT)がブラシ状にそろった束(カーボンナノチューブの"森":carbon nanotube forest)が高密度化できるのか、その仕組みを大型放射光施設「SPring-8」を用いた研究により解明したと発表した。

同成果は、JASRIの室隆桂之 主幹研究員らのグループと、産総研の二瓶瑞久 特定集中研究専門員(所属は研究当時)のグループとの共同研究によるもので、詳細は国際結晶学連合(IUCr)のオープンアクセスジャーナル「IUCrJ」オンライン版に掲載された。

CNTは、放熱材料として用いられているインジウムに比30倍以上の熱伝導性を持っているため、次世代の放熱材料として期待されている。しかし、その細さゆえに多数のCNTが束になっているカーボンナノチューブの森が必要であり、産総研では、これまでの研究から、従来法に比べ20倍の密度を実現できる成長法「STEP法」を開発していた。しかし、なぜ高密度化できるのか、その理由は不明のままであった。

今回の研究では、さらなる高密度化の実現に向け、その仕組みの解明に挑んだという。具体的には、光電子顕微鏡(PEEM:ピーム)を用いて、試料を加熱し表面を観察。その結果、チタンを下地にして触媒となる鉄が800℃と450℃とで比べた場合、800℃では鉄は試料表面に一様ではなく、鉄がない場所ではCNTが成長しないことを確認。高密度化には低温での成長が有利であることが示された。

しかし、450℃という温度は、通常は酸化した鉄を還元するには低すぎる温度であるため、次に軟X線光電子分光法(SXPES:エスエックスペス)を用い鉄の酸化・還元の状態の分析を実施。室温と450℃で比較したところ、450℃の環境では、還元された鉄のピークが大きくなっていることを確認。比較のために、チタンの下地がない試料も分析してみたものの、450℃では還元された鉄のピークはほとんど大きくならないことが確認され、この結果、STEP法における鉄は、450℃で予想以上に還元が進んでいることが示された。

ここ結果は、チタンの下地の働きにより生じている可能性を示すもので、さらなる調査のために、触媒の酸化・還元の状態から、成長したCNTの質までを含めた一連の成長過程を分析できるX線吸収分光法(XAS:エックスエイエス)を用いて分析を実施。その結果、鉄が450℃で粒子化している可能性が示されたほか、森の成長直後のスペクトル形状はグラファイトに特有のものであったことが確認されたという。ちなみに比較のために、チタン下地がない試料での成長も試みたが、鉄が十分に還元されず、森が成長しないことが確認されたという。

これらの結果から、研究グループでは、CNTの高密度化について、初期の室温の状態では鉄が酸化状態にあり、チタン下地も若干の酸化状態だが、温度が上昇していくにつれチタン下地が鉄の酸素を吸い始め、450℃に到達するとチタン下地がほぼ酸化され、還元された鉄が中止になるのに都合のよい下地へと変化、最後にアセチレンが投入されると、高密度を維持していた鉄粒子の上に、そのままCNTが森となって成長するという仕組みであるという結論に至ったとする。

なお、今回の成果は、直接的な観察によるものではないが、この機構が正しい場合、今後のさらなる高密度化を実現するためには、下地の酸化状態の制御が重要になることが予想されると研究グループでは説明しており、成長条件の改善に狙いを定められるようになることで、研究の加速が期待できるようになるとしている。

今回の研究で明らかにされた、STEP法によるカーボンナノチューブの"森"の高密度化の仕組み