東京工業大学(東工大)は5月8日、急いで食べるよりも、ゆっくりと食べる方が食後のエネルギー消費量が増加するという研究結果を発表した。

同成果は、同大大学院社会理工学研究科の林直亨 教授らによるもの。詳細は、5月1日付で欧州の肥満学会誌「Obesity」に掲載された。

よく早食いすると太りやすいと言われているが、これは多くの横断研究で示されているほか、早食いは過食につながることなども報告されており、早食いが過食に関連し、体重を増加させる可能性が示唆されていた。しかし、一定量の食事を摂取した場合であっても、食べる速さが体型に影響を与える可能性については良く分かっていなかった。

そこで研究グループは今回、一定量の食事を摂取させた時にも、ゆっくり咀嚼した方が食後のエネルギー消費量(食事誘発性体熱産生)が増加するとの仮説を立て、咀嚼が食事誘発性体熱産生に与える影響の検討を行ったという。

具体的には、被験者10名に20分の安静測定後、300kcal のブロック状の食品を与え、できるだけ急いで食べる試行と、できるだけゆっくり食べる試行とを実施。この結果、前者では平均103秒、咀嚼回数が137回であったのに対し、後者では497秒、702回であり、安静時から摂食、摂食後90分までの酸素摂取量を計測し、食事誘発性体熱産生量の算出を行ったほか、腹腔動脈と上腸間膜動脈の血流量の計測を行ったという。

この結果、食後90分間のエネルギー消費量は急いで食べた試行の場合、体重1kgあたり平均7calだったのに対し、ゆっくり食べた時には180calと、有意に高い値が示されたとする。

これは、例えば、体重60kgの人が同じ食事を1日3回摂取すると仮定した場合、咀嚼の違いによって1年間で食事誘発性体熱産生には約1万1000kcal、脂肪に換算した場合では約1.5kgの差が生じることを示すという。

また、消化管の血流もゆっくり食べた方が有意に高くなることが確認されており、研究グループでは、ゆっくり食べると消化・吸収活動が増加することに関連して、エネルギー消費量が高くなったものと推察されると説明する。

なお、研究グループでは、今回の成果を活用することで、ゆっくりよく噛んで食べることが良い習慣であることの裏づけになるとするほか、咀嚼を基本にした減量手段の開発につながることが期待されるとコメントしている。

体重当たりの食事誘発性体熱産生量の変化(安静値との差)を時間ごとに示したもの。●が急いで食べた試行、○がゆっくり食べた試行を示している。食後5分後にはすでに両試行の間に差が見られており、食後90分まで続いていることが確認された。(#は試行間の有意差、*は摂食前の安静時エネルギー消費量との間の有意差)