こうして計測技術を突き詰めてくると、ヒトの探究心は限りがないので、宇宙にも目が向くようになる。宇宙はどこまで続いているのかを調べだし、どんどん人類の宇宙のスケールは広がっていったというわけだ。地球外の天体で最初にそのサイズとそこまでの距離が測られたのは、もちろん地球の衛星の月だ。地球のサイズがわかっていれば導き出すことができる。

具体的にどのようにするのかというと、月食を使う。月が地球の陰に入り始めた瞬間からちょうど月が完全に隠れるまでの時間をまず計る。そして同時に、月が陰に入り始めた瞬間からから陰から出始める瞬間までにかかった時間も計るのだ。これは何を意味するかというと、前者は月1個分動いた時間で、後者は地球1個分動いた時間だ。つまり、その比率から、月の直径が地球の直径の何分の1かということを導き出せるのである。

この方法を用いた計測が2000年前の時点ですでに行われており、月は地球のおおよそ3分の1ということが導き出されたという。現在の技術による計測では月の大きさは地球の直径約1万2800kmのおおよそ4分の1の約3500kmであることがわかっているので、若干大きく導き出されたわけだが、地球上どころか宇宙の天体に関する計測なので、2000年前ということを考えれば、誤差の範疇といっていいのではないだろうか。

次は、月までの距離。これには、何か見た目的に月と同じぐらいのサイズのものがあればよい。ということで、ヒトの親指である。マンガ・アニメでおなじみの「宇宙兄弟」でも親指で月を隠すシーンがあるが、あれだ。自分の目と親指が描く三角形と、地球(自分の目)と月が描く三角形は相似形であり、前者に対して後者は何倍かということで求められるのである。

それには、親指の何倍が月かということがわかればよく、そうすれば観測者の目から親指までの距離を同じ数だけ倍にすればいい。月の直径は前述した月食を利用した方法で導き出せるので、月までの距離も求められるというわけだ。なお現在は、月までの距離はアポロ計画で宇宙飛行士たちが月面に設置してきた反射鏡を利用し、レーザーを月面の反射鏡に反射させて往復する時間から平均で約38万kmという数値が導き出されている。

同様に、月の大きさと月までの距離がわかれば、半月の時を利用することで(地球~月~太陽をつなぐ月の角度がちょうど90度になる)、先ほどの天井までの高さを測った方法を利用すれば、太陽までの距離も求めることが可能だ(現在の計測で、地球~太陽間の距離は、地球~月間の約400倍の約1億5000万km)。太陽までの距離が400倍ということであれば、日食でわかるように月と太陽の視直径はほぼ同じことから、月の約400倍の直径ということになり、つまりは地球の約100倍と導き出されるのである。実際のところ、太陽の直径は地球や月のように固体ではないため、現代の技術を持ってしても正確な直径を求めるのは難しかったりするのだが、おおよそ109倍とされているので、誤差の範囲内といっていいはずだ。

そして、太陽までの距離がわかることで、天の川銀河内の恒星までの距離も測れるようになる。これまた三角測量を利用するわけだが、こうした銀河系内の恒星の精密な距離を測るプロジェクトや、さらにもっと先の視認可能な系外銀河までの距離の精密な距離を測るプロジェクトなども行われており、その成果は未来館5階の「VRシアター」で、「国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト(4D2U)」(画像10・11)の3D映像を視聴可能だ。今回のイベントでも第3部で視聴したので、それについては後ほどお届けする。

画像10(左):4D2Uの日本語トップページ。画像11(右):4D2Uの成果を見られる4次元デジタル宇宙ビューワ「Mitaka」のサイトトップページ

これら距離の計測の話は、日本語では数学の1分野の幾何学に含まれ、幾何学は英語だと「Geometry」だ。語源としてはGeo=地球、metry=計測するということで、地球を測ることから始まっているのがわかる。ただし現在の技術をもってしても、宇宙の計測限界は存在する。宇宙誕生後の「晴れ上がり」が起きた38万年の時点よりも前は可視光などでの観測は不可能だし(光が直進できない状態だった)、宇宙の膨張による極超遠方にある銀河の地球からの後退(遠ざかる)速度が光速を突破してしまう138億光年彼方の「宇宙の地平線」の向こう側からは情報が地球まで絶対に届かないので、何があるのか、その先はどれだけ宇宙が広がっているのかもわからないというわけだ。

ちなみに、興味のある方は4D2UのWindows用4次元デジタル宇宙ビューワ「MITAKA」をインストールしてもらい、メニューバーの「離陸・着陸」内の「離陸・着陸」コマンドを選択し、その後に同じくメニューバーの「スケール」内の「100億光年」を選択する、地球(日本の三鷹上空)から飛び立ち、100億光年までのスケールの宇宙大規模構造を見ることが可能だ(画像12・13)。

画像12(左):MITAKAでは地表から飛び立ち、100億光年の彼方まで移動可能だ。画像13(右):実際に100億光年のスケールで観測されている銀河団などの大規模構造。暗い部分は、天の川銀河の中心など手前の光が強すぎて地球からでは観測不可能な部分。画像はどちらもMITAKAを用いて撮影

しかし、ヒトは数学という武器を持っており、考案した数式をコンピュータにプログラミングすることで、今では理論計算によりそうした実測不可能な空間であっても測れるようになってきているののはいうまでもない。ガリレオも「世界は、数学という言葉で書かれている」といったそうだが、我々の世界は数学とは切っても切れないのだ。