核融合研究には毎年200億円以上が投じられているが、成果がわかりにくい。自然科学研究機構の核融合科学研究所(岐阜県土岐市)は、大型ヘリカル装置(LHD)で1億度に迫るイオン温度9400万度を達成した。4月2日から4日まで同研究所で開かれた「平成25年度プロジェクト成果報告会」で発表した。LHDは、核融合実験炉で主流のトカマク型と違うヘリカル型。ヘリカル型としては世界最大の装置で、1998年から実験を積み重ねており、その進展が注目されている。

図1. 最高イオン温度9400万度を記録したプラズマ中のイオン温度分布。横軸は加熱される中心部からの距離(m)。プラズマの断面半径は約0.6m。

昨年10月2日から12月25日にかけてプラズマ実験を実施した。水素やヘリウムの制御が進んでプラズマの性能が上がり、運転領域を拡大し、2つの新記録が出た。まずイオン温度は、昨年の8500万度を超える9400万度に上がった。この時の密度は1cc当たり10兆個だった。定常運転では、1200キロワットの加熱電力で48分間、プラズマ保持に成功した。この定常プラズマに注入された総エネルギー量はこれまでLHDが持つ世界記録の1.6ギガジュールの2倍以上の3.4ギガジュールに達した。将来、核融合が実現する際には長時間の定常運転が欠かせないだけに、総注入エネルギーの拡大は意義がある。

図2. 加熱電力と保持時間で見た定常運転領域。桃色の丸が2012年度までのデータで、13年度の赤丸によって、総注入エネルギー(電力×時間)で未踏の領域に進んだ。

表. LHDのプラズマ性能。赤字は昨年の実験で達成された値

山田弘司(やまだ ひろし)大型ヘリカル装置計画研究総主幹は「今回の実験で、何がプラズマ性能の向上をもたらすか、理解が深まった。1億2000万度のイオン温度を1cc当たりの密度20兆個で達成し、超高温プラズマの定常運転実証のために3000キロワットの加熱電力で1時間保持するというLHDの最終目標に向けて、着実に前進した」と話している。

同研究所は、核融合炉内壁のタングステンにヘリウムが衝突したときのナノ構造変形のコンピューターシミュレーションによる再現、日本で開発されたイットリウム系高温超伝導線材で10万アンペアの電流値突破(世界記録)の成果も報告している。