東京大学は3月29日、国立精神・神経医療研究センターとの共同研究により、鶏肉に含まれる「イミダゾールジペプチド」含有食品を3ヶ月間摂取するボランティア群と、そうでないボランティア群の食品摂取期間の前と後に、MRI検査と神経心理機能検査を実施したところ、前者の群ではイミダゾールジペプチド含有食品を摂取後に記憶に関連する脳部位の萎縮が抑制されていることと、うつ傾向と認知機能に改善傾向が認められたと発表した。

成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻の久恒辰博 准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、3月30日に東京で実施された日本農芸化学会のシンポジウムにて発表された。

食べ物には生体のエネルギー源としてだけではなく、生体が外界の変化に対応して一定の状態や構造を保とうとする性質、つまり恒常性を保つ機能があり、心身の健康を維持する働きがある。中でも肉類には、単なるタンパク質の供給源であることを超えて、例えば「肉を食べていると元気になる」といったことは実際に経験がある人も多いかと思うが、こうしたいまだに知られざる働きがあることも、近年論じられるようになってきた。これらの効果をもたらす食品中の成分は、「高機能食品成分」と呼ばれている。

高機能食品成分の例としては、鶏肉にはイミダゾールジペプチドと呼ばれる複数のアミノ酸からなる分子が多く含まれており、同ペプチドにはこれまでに抗疲労効果があることなどが報告されてきた。イミダゾールジペプチドは、「βアラニン」とイミダゾール環を持つアミノ酸「ヒスチジン」などからなる生体ジペプチドである。下の画像の「カルノシン」に加え、βアラニンと「メチルヒスチジン」からなる「アンセリン」などがある。

カルノシン(βアラニル-ヒスチジン)の化学構造式

しかし、イミダゾールジペプチドには未知の効果がある可能性が残っていたのである。そこで今回の実験を実施したところ、イミダゾールジペプチド含有食品を3ヶ月間摂取したボランティア群は、MRI検査と神経心理機能検査において、同含有食品を摂取した後に記憶に関連する脳部位の萎縮が抑制されていたこと、うつ傾向と認知機能に改善傾向が見られたというわけである。

これは、肉類に含まれるイミダゾールジペプチドに記憶に関連するヒトの脳部位の萎縮を抑制すると共に、神経心理機能を改善する働きがあることが示唆する結果というわけだ。

今回の成果は、食肉や魚肉が持つ健康維持作用を新たに明らかにすることに成功した形である。また、食肉の適量摂取は、脳や心の健康維持につながる可能性が期待されるとした。