理化学研究所(理研)とリコー、東北大学の3者は4月1日、分離照射電子線ホログラフィを改良し、微小な絶縁体試料が帯電する様子を詳細に解析できるようにしたことで、高精細かつ省エネルギーのプリンタ開発において鍵となる、トナー粒子とキャリア粒子間の電位分布の解析に成功したと発表した。

同成果は、同所 創発物性科学研究センター 創発現象観測技術研究チームの進藤大輔チームリーダー(東北大学 多元物質科学研究所 教授)、谷垣俊明研究員、赤瀬善太郎客員研究員(東北大学 多元物質科学研究所 助教)、村上恭和客員研究員(東北大学 多元物質科学研究所 准教授)、リコー 研究開発本部の川瀬広光研究主担らによるもの。詳細は、米国の科学雑誌「Applied Physics Letters」オンライン版に掲載された。

静電気の力を利用して画像形成を行うレーザプリンタは、常に高画質化や省エネルギー化が求められているが、実現するためには、画像品質を左右するトナー粒子とキャリア粒子間の静電相互作用を解明する必要がある。その有効な手法の1つが、電磁場の可視化と同時に、局所箇所の電位を精度良く計測できる電子線ホログラフィである。しかし、試料の内部だけでなく、外部にも無視できない強さの電磁場が存在する場合には、電子線ホログラフィの実験で必要な参照波が大きく歪んでしまい高精度な計測ができない。また、トナー粒子とキャリア粒子は絶縁体のため、電子線が試料に照射されると試料自身が帯電し本来の電位分布解析を妨げる、という問題もあった。

そこで今回、研究グループでは、電子線バイプリズムで電子波を分け、一方が観察領域を、もう一方が試料から離れた参照領域を通過するようにした分離照射電子線ホログラフィ、および電子顕微鏡の照射部にマスクを設置して試料を電子波から隠す技術を開発した。

試料の走査電顕微鏡(SEM)像と分離照射電子線ホログラフィの模式図。(a)カラー表示したトナー粒子(黄色)とキャリア粒子(水色)のSEM像。(b)ホログラフィ電子顕微鏡の電子源とレンズの間のバイプリズムにより電子波を分離し、試料からの電場の影響の少ない参照波を用いて計測することが可能。レンズの作用によりマスクのフォーカスされた影を試料面に形成することで、任意形状の試料を電子線から隠すことができる

電荷を帯びた試料には、トナー粒子が正の電荷を帯びた正帯電型と負の電荷を帯びた負帯電型の2つがある。この2つのモデル試料を、開発した分離照射法で比較解析したところ、どちらの試料も局所的な電位分布を持つことが分かった。また、トナー粒子とキャリア粒子の接触箇所での電荷のやり取りによる電位分布と、その電場により誘発される分極を示す電位分布の解析にも成功したという。

今後、この成果を応用した高精細かつ省エネルギーのレーザプリンタの開発が期待できる。また、同技術は、他の材料や電子デバイスにおける高精度電磁場計測にも活用が期待できるとコメントしている。

分離照射法と従来法で得た位相像の比較。分離照射法で得た位相像(a)に比べ、試料からの電場が参照波に影響する従来法で得た位相像(b)は大きく歪んでおり、高精度位相計測が困難だった

分離照射法で得た位相像を解析し得た電位分布。(a)正帯電型と(b)負帯電型のどちらのタイプの試料でも局所的な電位分布を持つことが分かった。また、トナーとキャリアを引き寄せているメカニズムの根幹となるトナー粒子とキャリア粒子接合界面での移動電荷と、それによるトナー粒子の分極電荷が形成する電位分布を解析することに成功した。図中矢印Pは分極方向を示している