東京大学は3月19日、年齢(距離)の違う多数の銀河団を可視光とX線で観測することで、銀河団に属する銀河たちが数10億年をかけ、徐々に中心部へと落下してきている事実を突き止めたと発表した。

成果は、東大 理学系研究科 物理学専攻の牧島一夫教授(ビッグバン宇宙国際研究センター長、理化学研究所 MAXIチームリーダー兼任)、同・中澤知洋 講師、同・天文学専攻の嶋作一大 准教授、東大 ビッグバン宇宙国際研究センターの顧力意(Gu Liyi)特任研究員、国立奈良工業高等専門学校の稲田直久 一般教科講師、宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所 高エネルギー宇宙物理グループの川原田円 研究員、国立天文台 光赤外研究部の児玉忠恭 准教授、首都大学東京 理工学系研究科 物理学専攻の小波さおり 研究員、英・ダラム大学のPoshak GANDHIラザフォード研究フェロー、中国・上海交通大学 物理・天文学科の徐海光(Xu Haiguang)教授らの国際共同研究チームによるもの。今回の研究に関する論文は、1年ほど前の2013年4月8日付けで米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載され済みだ。

銀河は現在のところ正体不明の暗黒物質が作る強い重力に束縛されており、銀河の大集団である「銀河団」を形成している。我々の天の川銀河は、アンドロメダ銀河など40~50個ほどの大小さまざまな銀河と共に「局部銀河群」(正確には銀河群は銀河団よりも小規模な銀河の集合のことをいう)というグループを構成しているという具合だ(その局部銀河群はほかの銀河団などと集まって「おとめ座超銀河団」に属している)。銀河団の中では数100個の銀河が、銀河系の中で銀河中心の周囲を巡っているように、広大な空間内を高速で飛び回っている。

この銀河団内の空間はもちろんヒトが呼吸できるほどの大気圧はないわけだが、完全な真空ではない。約1億度という高温の電離ガスも重力によって閉じ込められている。その証拠としてそれら高温ガスが放射しているのが、エネルギーの高いX線というわけだ。その銀河団内の高温電離ガス中を銀河が運動する際、これまでガスは銀河に抵抗を及ぼさず、銀河の内部をすり抜けると考えられていた。

しかし牧島教授らは、JAXA(正確にはJAXA統合前の旧・宇宙科学研究所(ISAS))が1993年に打ち上げた日本で4番目のX線天文観測衛星「あすか」(2001年に運用停止)を用いて多くの銀河団の高温電離ガスを観測した結果、この通説に疑問を持つようになったという。それ以来、JAXAが2005年に「あすか」の後継機として打ち上げた「すざく」(運用中)やNASAの「チャンドラ」(運用中)といったX線天文観測衛星、可視光での大規模サーベイデータなどを用いて20年がかりで研究を続けて来たとする。

そしてついに今回、年齢(距離)の違う多数の銀河団を可視光とX線で観測することで、銀河団に属する銀河たちが数10億年をかけ、徐々に中心部へと落下してきている事実を突き止めた(画像1・2)。この結果は従来の通説に反し、ガスの抵抗が銀河の運動にブレーキをかけていることを明確に示しているという(画像3)。この過程で銀河がガスに受け渡すエネルギーの流れは莫大なもので、個々の銀河団の銀河で発生する超新星の放出エネルギーの総和を上回るほどだが、今まで誰もその流れには気づいていなかったとした。

可視光(カラー)とX線(青)で見た、近傍(画像1(左))と遠方(画像2(中))の典型的な銀河団の画像。緑色の丸で示されているのが、観測した2つの銀河団それぞれに属する銀河。数10億年前は銀河団の銀河と高温ガスが同様の分布をしていた(画像2)が、最近になって銀河が高温ガスよりも中心集中している(画像1)ことがわかる(左図の左側の赤い天体は手前の恒星)。(c) RESCEU/Univ. of Tokyo/L. Gu et al., X-ray(NASA/CXC; ESA/XMM-Newton), Optical(Sloan Digital Sky Survey; University of Hawaii 2.2-meter telescope) 画像3(右):牧島教授らの学説に基づく銀河団の中心部分の模式図。灰色は銀河で、中心銀河は大きく描かれている。青矢印は銀河の運動を表し、緑の線は磁力線、背景のオレンジ色の部分は高温の電離ガス、水色の部分はやや低温の電離ガス、赤丸は磁力線のつなぎ替えでガスの加熱が起きる場所

今後、すばる望遠鏡や、JAXAが2015年に「すざく」の後継機として打ち上げを予定しているX線天文観測衛星「ASTRO-H」を用いて、銀河から冷たいガスがはぎ取られたり、銀河が電離ガスを引きずったりする現場を解明することで、今回の新しい観点をより具体化すると共に、銀河の運動エネルギーが電離ガスに受け渡されるという今回発見されたエネルギー流が宇宙に与えた影響を究明する計画とした。同時にプラズマ物理学者と協力し、銀河と高温ガスがどのように相互作用するかを解明していきたいという考えを明らかにしている。