岡山大学は、炎症性サイトカインの1つである「腫瘍壊死因子-α(TNF-α)」の一時的刺激が、歯髄細胞の未分化性獲得と維持に関与していることを発見したと発表した。

同成果は、同大大学院医歯薬学総合研究科(歯学系)インプラント再生補綴学分野の窪木拓男 教授らによるもの。詳細は、「Stem Cell Research & Therapy」で公開された。

生物の組織を再生させる際、強い炎症環境は細胞のプログラムされた死を誘導するなど、負の側面を持っているが、それに伴いサイトカインが組織幹細胞を誘導するということがこれまでの研究から判明している。

研究グループでも、これまでの研究にて歯質切削などの刺激直後に、歯髄腔に間葉系幹細胞が出現することを報告しており、今回の研究では、組織損傷時に発現が誘導される炎症性サイトカインに着目し、それらが組織幹細胞の遊走や幹細胞性の獲得・維持に関与している可能性があるとの仮設を立て、その検証を行ったという。

実際に、複数の炎症性サイトカインを用いヒト歯髄細胞を刺激した結果、短期間のTNF-α刺激時においてのみ、間葉系幹細胞マーカーの発現が上昇し、TNF-α刺激を行なった歯髄細胞は、骨芽細胞や脂肪細胞など他の細胞への分化効率が高まることが確認されたという。

近年の研究から、間葉系幹細胞自体に炎症や免疫反応を押さえる作用があることが報告されるようになってきたが、今回の結果から、間葉系幹細胞が歯髄創傷部位や感染局所に一時集積することを考えると、適度な炎症環境が組織幹細胞の未分化性獲得や維持、炎症制御に密接に関わり、再生の場の準備に強く関わっている可能性が示唆されたと研究グループでは説明する。

また、こうした作用のある間葉系幹細胞を誘導するメカニズムはまだ良く分かっていないことから、今後、さらに研究を進めることで、将来的には、間葉系幹細胞を未分化な状態に保ったまま、大量に培養するための基盤技術となる可能性もあり、今後の組織再生の考え方に影響を与える可能性があるとしている。

露髄2日後(ラット臼歯)。歯髄腔には間葉系幹細胞マーカーの1つであるCD146陽性細胞が多数観察された(左の図。p:歯髄、d:象牙質、青:核、緑:CD146)。また、in vitroにおいて、歯髄細胞をTNF-αで刺激したところ、間葉系幹細胞マーカーの1つであるSSEA4の発現が上昇することも確認された(右の上図:免疫染色(青:核、緑:SSEA4)、右の下図:FACS解析)