沖縄セルラー電話 代表取締役社長 北川 洋氏

auサービスを提供する会社はKDDIだけではないことをご存知だろうか? 実は、沖縄県だけKDDIとは別会社の「沖縄セルラー電話」がauサービスを提供している。今回、沖縄セルラー電話で代表取締役社長を務める北川 洋氏に沖縄独自の戦略について話を伺った。

沖縄セルラー電話の成り立ちは、1991年の6月までさかのぼる。当時、第二電電(現KDDI)の立ち上げに参画していた京セラの稲盛会長が沖縄の地元企業と話し合いを持ち、「沖縄は地元資本で携帯電話会社を」との結論から51%を第二電電、残りを地元有力企業であるオリオンビールなどが出資する形で沖縄セルラー電話が誕生した。本土のKDDIとは異なり、長らく携帯電話事業のみの提供となっていたが、2010年に電力系の「沖縄通信ネットワーク」を子会社化して圏内で唯一移動通信事業と固定通信事業(FTTH)を提供する企業となっている。

こうした経緯から、地元企業に愛される携帯キャリアとなっており、全国で唯一KDDI系がシェア1位を取っているようだ。NTTドコモがiモードを提供するまではシェア6割、現在でも約5割がKDDIといわれており、NTTドコモがやや離されて3~4割、SoftBankが1割強の構造だ。固定網のFTTHでも2010年の参入ながら、年々シェアが上昇しており、3月末には約2割程度まで達する見込みだという。「沖縄セルラー電話の『auひかり ちゅら』の強さは、本土でも提供されているauスマートバリューに尽きる。移動と固定を合わせることで、移動の強さが固定に生きている」と北川氏は話す。

沖縄セルラー電話本社・受付

エントランスにはauスマートフォンが並べられている

玄関の床には沖縄県の島々が描かれており、写真左の奥の方に大東諸島(右)がある

auひかり ちゅらは年々シェアが上昇

ユーザーから愛される携帯キャリアを目指して

もちろん、この販促施策は読者の方もご存知の通り全国的な施策の一部に過ぎないが、沖縄セルラー電話独特の特色として「地域に即したマーケティング」が挙げられる。例えば、沖縄セルラー電話の公式キャラクターとして「auシカ」というキャラクターがいる。沖縄・慶良間諸島の「ケラマジカ」をイメージしたauシカは、「茸が好物」という意味深なキャラクターだが、テレビCMに起用されるなど、2005年から長い間愛され続けているキャラクターだ。

これがauシカ。オジーなどの仲間のキャラクターも存在する。詳しくはauパラダイスネット

ほかにも「auジョイプロジェクト」と称して、日本一早い花火大会やKDDIのCMにも起用されているきゃりーぱみゅぱみゅなどの人気アーティストコンサートを後援することで、若年層の支持を取り付けている。ユニークな取り組みとしては「au受験生応援プロジェクト」が挙げられるだろう。これは、福岡県の太宰府天満宮に沖縄セルラー電話が受験生に代わって学業成就を祈願するというもの。受験生を応援したい家族がこのプロジェクトに応募すると、鉛筆と消しゴム、絵馬をもらうことができ、絵馬は沖縄セルラー電話が太宰府天満宮に奉納する。「受験生や家族は気軽に行くことのできない太宰府天満宮への祈願ができるし、私たちはこのプロジェクトでオフィシャルに住所などの情報がもらえるだけではなく、ユーザーからの信頼感を得られる」と北川氏は話す。

こうした大規模なマーケティング戦略だけではなく、きめ細やかユーザー対応も携帯キャリアには欠かせない要素の一つだ。ユーザーとの接点となるキャリアショップは、沖縄県で断トツの86店舗を誇り、2位NTTドコモの46店舗を大幅に上回る。

「沖縄県だけの特徴として、量販店よりもキャリアショップでの携帯端末購入数が多い。ソフトバンクさんは本土で量販店戦略が上手いものの、沖縄で振るわないのはそうした点もあるのではないか」(北川氏)

ほかにも県内には全キャリアを取り扱う併売店が「一つもない」(北川氏)など、本土とは一線を画した携帯端末の販売市場ができあがっているようだ。こうした状況に加えて沖縄のもう一つの特色として「Android端末が強い」ことが挙げられる。

「沖縄はAndroid端末がほかの地域と比べて多く売れている。防水端末のニーズが高く、Android端末を求める人が多いようだ。その一方でiPhoneもそれなりに売れているが、昨秋のドコモ参入時の影響は微々たるものだった。iPhoneを求める人が少ない上に、本当にほしいという層はすでに沖縄セルラー電話やソフトバンクを利用していたと分析している」(北川氏)

キャッシュバック競争は沖縄でも

こうした販売状況が違う中でも番号ポータビリティ制度(MNP)による「キャッシュバック競争」は本土とほとんど変わらないと北川氏は語る。

競合他社のチラシ。既存ユーザーの通信料を原資としたユーザー獲得競争はいつ止まるのか

「2012年の途中までは本土とは異なり、それほど競争は加熱していなかったが、NTTドコモが2012年7月~9月辺りに0円端末をばらまきだしたのが始まり」と話し、沖縄セルラー電話が望んだ競争ではないことを強調。同社近くのauショップで家族4人のMNP契約で数十万円単位のキャッシュバックが喧伝されていたと記者から質問が飛ぶと「他社も大差ない状況だ」と沖縄県で展開されている他社の新聞折り込みチラシを見せた。

「私たちは沖縄県でシェア1位であり、どうしても対抗しなくてはいけない側面がある。ソフトバンクの孫社長も口ではキャッシュバックを減らすと言っているけれども、(他回線契約などによる)各種付帯契約の"キャッシュバック"という名の付かない施策は店舗を見てみるとやっていると思う」(北川氏)

ネットワークも万全に

ただ、キャッシュバック競争が携帯キャリアの本質ではないことはユーザーも重々承知のことだろう。沖縄セルラー電話としても、価格面だけではない"通信エリア"の展開・訴求を行なっている。

北大東島に立てられたLTE基地局。エリアの拡充が顧客基盤につながると北川氏は力説する

「南大東島・北大東島という沖縄から飛行機で1時間ほどの遠い離島がある。ここに足を運んだところ、島民の方から『ドコモが繋がらない』という話を聞いた。沖縄ではエリアカバー率が100%と言っていたにも関わらずだ」(北川氏)

これには事情があり、今でこそKDDIやソフトバンクが"実人口カバー率"と呼ばれる住人がいるエリアをどれだけカバーしているかわかる指標を用いているが、NTTドコモは各市町村役場をカバーしていればその一帯は通信エリアとみなす従来型の「人口カバー率」を採用している。このため、実際のエリア状況と人口カバー率に差が出ていたのだ。

サトウキビ畑で作業している時、漁業で作業をしている時と、繋がらないエリアが出てしまっては困るため、同社は大東島の周囲2km程度までつながるエリア展開を行なっている。

「沖縄には多数の離島が存在するため、口コミで『あそこでも繋がったよ」という話がとても大事だ。そういう場所では、沖縄セルラー電話として固定回線を持っていないので、NTTさんのバックホール回線も借りてやってできるだけ速度を確保しようと取り組んでいる。離島の市町村はインフラ整備の優先度として"通信"を高く設定している。そうした要望にいち早く応えていけるよう頑張っていく」(北川氏)