「親父の四十九日に、海で散骨しようと思う」──そんな友人の話を聞き、本誌記者は散骨に立ち会わせてもらった。散骨場所は東京湾で、故人の親戚や友人ら総勢10人ほどがクルーザーに乗り込んだ。

 船内ではお茶を飲みながら故人の思い出話に花が咲き、孫たちは水溶性の折り紙で折り鶴を折っていた。

 乗船場を出てから30分ほど、クルーザーが羽田沖で停止した。デッキに上がるとやや肌寒いものの、風もなく海は穏やかだ。

 まずは海に向かって黙とう。故人が大好きだったという日本酒の大吟醸を海に撒き、花や折り鶴などを投げ入れる。それから遺族が細かく砕いて水溶性の紙に包んでおいたお骨を、そっと海に浮かべた。

 散骨が終わると、クルーザーはその周囲をゆっくりと旋回する。参列者は故人が海に還っていくのを見守るように、手を合わせた。故人の穏やかな人柄が偲ばれるような静かですがすがしい葬儀だった。

 直葬とともに、葬儀業界の新たなトレンドになっているのが自然葬だ。墓を設けず、遺骨を海や山などに撒くだけである。

 記者の友人の場合は、参列者が多くクルーザーをチャーターしたため20万ほど費用がかかったが、何組か合同でチャーターすれば半額以下ですむという。

 海洋散骨をコーディネートする日本橋東香グループの肘井哲也代表が言う。

「2mm以下まで細かく遺骨を砕き、水に溶ける袋に入れて沖合まで持っていって撒きます。漁場や釣り場が近いと苦情が出かねないので、“散骨に適した場所”がおおまかに決められている。

 東京では羽田沖と浦安沖、横浜はベイブリッジから鶴見つばさ橋付近、相模沖では葉山と江ノ島の中間あたりです。散骨を希望する人は年々増え、弊社では年間300件ほど行なっています」

 遺骨の主成分はリン酸カルシウム。もともと自然界に存在する物質なので、撒いても環境破壊にはならない。

 かつては「法律違反ではないか」と議論されたこともあったが、1991年に法務省が「葬送のひとつとして節度を持って行なわれる限り、遺骨遺棄罪にはあたらない」との見解を示したことで事実上、法的にも認められている。

※週刊ポスト2014年3月21日号