東京農工大学(農工大)は2月25日、仏・モンペリエ大学との共同研究により、ヒト型ロボットを目前にした日本人被験者の感情と、それに反応する体の動きの相関について実験を行い、その結果、ロボットに対する「親しみ」感情が高いほど、その反応動作の中に特徴的な変化が見られることを証明したと発表した。

成果は、農工大大学院 工学研究院 先端機械システム部門のGentiane Venture (ジェンチャン・ベンチャー)准教授、モンペリエ大学 ヒト社系学際研究センターのRitta Baddoura(リタ・バデューラ)氏らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2月11日付けで「frontiers in NEUROROBOTICS」に掲載された。

昨今、日本では若者を中心に「空気を読む」という言葉で表現されるが、人間がコミュニケーションを取る際に、言外の情報を互いに汲み取ることは、日常的に発揮する大切な社会適合能力の1つなのはいうまでもない。それが不得意なために会社や学校で周囲から敬遠されてしまったり、中にはイジメなどの被害に遭ってしまったりすることがあるのは誰もが知るところだろう。

一方、2足歩行ロボットなどの研究進展に伴い、実際にロボットが人間社会や生活空間の中で活躍するための研究が進められている。一般の家庭へ導入する際の物理的な安全性の問題だけでなく、ロボットに対するヒトの「親しみ」の感情を重要なキーワードとした、ヒューマン・ロボット・インタラクションの研究も大いに進められているところだ。しかし、この「親しみ」というのは科学的に扱うにはなかなか難しい要素で、数値的な正確さを欠いた表現である。そのため、これまで定量的に取り組んだ研究は一切なされてこなかった。

そこで今回、Venture教授ら農工大の研究チームがヒトの動作分析を主として扱い、Baddoura氏らモンペリエ大学の研究チームが心理学的評価を主として扱う形で、共同実験が実施された。ヒトとヒト型ロボットのやりとりに際し、ロボットへの感情(心理学的評価)と、ロボットに対する反応動作(人間の動作分析)が評価されたのである。

具体的には、事前にロボットと交流するという説明を聞いていない被験者に対し、ロボットが挨拶し、アンケート用紙が入った封筒を手渡す際の反応について、被験者の手と頭の動作が定量的に測定された(画像)。その結果、ロボットに対する「親しみ」が高いほど、挨拶や封筒を受け取る際の被験者の手・頭の反応動作(動作頻度や滑らかさ)に傾向が見られたという。さらに、「親しみ」が高いと、被験者はロボットの動作を先読みして、ロボット動作を補助するよう体を動かすことも観察されたとした。

ロボットが挨拶する際のヒトの反応が調べられた

今後研究チームは、異文化を背景とする西洋人などの被験者に対する同様の比較実験を行うなど、人間のロボットに対する「親しみ」と体の反応動作の相関について、さらなる研究を進めていくとしている。また今回の研究が、将来的には、ヒトの生活空間で自立的に動作するロボットや家電製品などに対して、よりヒトに受け入れられる優れたユーザーインタフェースなどの開発へと繋げられることが期待されるとした。