女優 門脇麦や竹野内豊が出演したことで話題になった東京ガスのテレビCMシリーズ「ガスの仮面 MASK OF GAS」。その集大成となるウェブ限定ムービー 本公演「SWAN LAKE」が公開されている。

12年のバレエ経験のある女優 門脇麦による、ウェブ限定ムービー「ガスの仮面」本公演「SWAN LAKE」

この本公演は、クラシックバレエの代名詞である「白鳥の湖」を現代のテクノロジーを駆使して再解釈されたもの。この公演の制作には、豪華クリエイター陣が参加しており、振付にはPerfumeなど多くのアーティストやCMの振付を担当する演出振付家 MIKIKO氏が、映像制作にはメディアアーティスト 真鍋大度氏が、ディレクターにはビジュアルデザインスタジオ「タングラム」の矢吹誠氏らが名を連ねた。

今回は真鍋氏に加え、ライゾマティクスの木村浩康氏、電通の菅野薫氏、PARTYの中村洋基氏、石塚美帆氏らに、企画制作の裏側について話を聞くことができた。

――クライアントである東京ガスからはどのようなオーダーが?

PARTY 中村洋基(以下、中村氏)「とにかく(顧客を)ウェブに連れてきて、というオーダーでした。以前、私が『東京ガスストーリー』というテレビCMを使ったキャンペーンを実施したことがあり、そのときウェブではYouTubeのアノテーション(オーバーレイとして表示されるクリック可能なテキスト)と呼ばれる機能を使って、ユーザーの選択によってストーリーが変わるウェブドラマを制作しました。このときテレビCMからウェブへの流入が多く、良い評価をいただきました。“今回はそれ以上に面白いものを作ってほしい”と言われました。加えて、東京ガスという会社が、ガスを作って売っているだけではない。コンロやミストサウナなど家庭向けの商品も提供しているという認知度を高めてほしいということでした」

特設サイト「ガスの仮面 本公演『MASK OF GAS』」

―― 「バレエ」という企画が生まれた経緯は?

中村氏「これはテレビCMシリーズの方にまで話は遡るのですが、テレビCMでもウェブでも、見た人に楽しみながら商品を理解してもらいたいという思いがありました。当初から、登場人物の成長に合わせて物語が進んでいきストーリーの中で商品を自然な形で登場させて、CMで伝えきれない商品情報をウェブで深く語るというスキームを考えていました。ただし、商品情報を並べるだけでは視聴者に見てもらえないので、そこにエンタテイメントが必要になる。そのときに、バレエを踊りながらコンロの機能を紹介したり、バレエの技を商品特徴に絡めて表現したら面白いのではないかと思い、バレエを題材にすることにしました。ちなみに当初は、ウェブ限定ムービーではなく、観客を呼んで公演を実施しUSTREAMで中継するウェブイベントなどの可能性も検討されていたんです。いずれにしても、僕らがバレエというものを現代風に、そして自分たちの得意な方向に再解釈したら面白いんじゃないかと思いました」

――この豪華なチームが編成されていくまでの流れは?

中村氏「バレエを現代風に再解釈するとなったときに、どんなチームで行くべきかと電通の菅野さんに相談しました。すると、“やっぱりライゾマさんなんじゃないか”という話になって、大度さんと木村さんをお呼びしました。バレエの振り付けだったらライゾマさんと一緒にPerfumeの仕事をやっているMIKIKOさん。映像なら、矢吹さんといった具合に」

電通 菅野薫(以下、菅野氏)「洋基くんからお話をもらったのが10月ぐらい。本公演の公開が12月だったのでスケジュール的には大変だろうなと思いつつ、こんなチームでできたら素晴らしいねと思いました。コンセプトについては、バレエという真面目なんだけれども面白いと思ってもらわなくてはいけないので、今までのやり方では進まないなとも」

中村氏「そこで、Perfumeの公演でよく感じるような"これ、どうやってやってるの"と思うような技術、それを駆使するチームの血を入れてみたら、バレエがキャッチーなものになるんじゃないかと思ったんです」

真鍋大度(以下、真鍋氏)「これまでバレエ経験者の方と、コンテンポラリーの新しい作品を制作したことはありました。しかし、バレエをそのまま演出するということはなかった。MIKIKOさんと一緒に考えて進めていきました」

踊りに合わせ暖色のイメージが床に広がり「熱」を表現

――自身にとって、挑戦的だったと感じるところは?

木村氏「テレビCMとウェブ限定ムービーの温度感をそろえることと、きちんとプロダクトの理解に落ちていくことを意識しました。そのためにムービーだけでなく、サイトの方にも工夫を施しました」

PARTY 石塚美帆(以下、石塚氏)「テレビCMはコミカルな演出である一方、ムービーはシリアス。しかし、デザインとしてはきれいにまとめられたのではないかと思います」

中村氏「本公演を見たひとに"作ってるやつ、何考えてるんだ"と思われたかったのはあります。ふざけたことを高いクオリティーでやりきるという一種の定石です。このときに大切なのが、高い完成度であることです。そういうことを企めるメンバーをそろえたかったんです」

菅野氏「ひとつは、真鍋さんやMIKKOさんらが作り出す、高いクオリティーの強度を保ったまま出せる場づくり。ふざけ方を間違うと実力を活かせませんし、おふたりのファンから"なんであの人、こんなことしたんだろうね"と思われてはいけませんから。もうひとつは、きちんと広告としてワークさせるということ。Perfumeのファンが本公演を見たときにも"きれいだね"で終わってしまってはいけないと思っていました」

炎をモチーフとして背景スクリーンで「炎」を表現

――見どころは?

菅野氏「どこの部分にどんな技術を投入しているのか分からない。"どうやってやったんだろう"と思える要素と、それを解くヒントを映像の中に散りばめました。そういうところを楽しんでほしいです」

中村氏「たしかに、どこからがリアルの人が表現していて、どこからが魔法のような演出なのか、不思議に思える楽しさがあると思います。加えて、フォグプロジェクション自体も面白いです。フォグに映像を投影させて、それと門脇さんのリアルの踊りとがマッチするあたりは、現場でも感銘を受けたのを覚えています」

真鍋氏「商品があるということがもちろんベースにあって作ってはいるけど、あくまでも作品として作っているので、純粋に楽しんでほしい。門脇さんはバレエの経験にブランクもあって、忙しい中練習していた。そういうのが現場でも伝わってきました」

菅野氏「それと、強く言っておきたいのはMIKKOさんが素晴らしかったということ。単なる振り付け師の方と思われたら、それは損していると思います。テクノロジーや映像、ウェブのことを演出の中に取り込んで、ひとつの作品を作り上げるしなやかさや才能は素晴らしかった。肩書きを付けるのが難しいほど」

真鍋氏「実際にひとを動かすとなると、僕らはできないことが多い。そういうところはMIKKOさんにおまかせでした」

フォグスクリーンで投影される黒鳥と、霧の中から現れ踊る白鳥の共演

――技術的な見どころは?

真鍋氏「作り方をばらすのは面白くないと思うので、あんまり言いたくないのですが、舞台装置の中には自作したものもあります。普段からそうなのですが、コンセプトや演出ありきなので、技術ははまれば使うし、はまらなければ使わないというやり方です。映像に落とし込むところのタングラムチームが特に良かったと思います」

中村氏「現場では、「Adobe After Effects」を起動して、演技に合わせてその場で映像を調整したりしていました。その場で再構築してみたいな。そうやって作品の完成度が上がっていくのは面白かったです」

――作品に対する反響は?

中村氏「私が手がけるものは、つっこみどころが多いコンテンツばかりなので、"ここまで終始かっこよくていいのかな"と思っていましたが、"かっこいい"、"どうやって作ってるんだろう"、"コミカルなウェブムービーの最後にこれかよ"といったありがたい反響をたくさんいただきました。

豪華クリエイター陣による、東京ガス「ガスの仮面」本公演「SWAN LAKE」。ぜひご覧いただきたい。