国立天文台は2月7日、超長基線電波干渉法(VLBI:Very Long Baseline Interferometry)を活用した銀河系の3次元立体地図作製プロジェクト「VERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)」と、米国立電波天文台が運用する電波望遠鏡「VLBA」(超長基線アレイ:Very Long Baseline Array)の共同観測から、銀河系中心の巨大ブラックホール天体「いて座A*」で、これまで観測例のない変わったフレア現象を発見したと発表した。

成果は、東大大学院 理学系研究科の大学院生・秋山和徳氏、国立天文台の本間希樹准教授、同・小林秀行教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2013年8月25日付けで「日本天文学会 欧文研究報告」に掲載された。

宇宙に存在する銀河の多くは、その中心に太陽の数100万倍から数10億倍というとてつもない質量を持った巨大ブラックホールを持つと考えられている。我々の天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の重さを持った巨大ブラックホールがあることは有名だ。

この巨大ブラックホールには、電波で明るい「いて座A*(エー・スター)」という天体が付随していることが知られている(画像1)。いて座A*は数億から数10億度という非常に高温のプラズマガスからの光だと考えられているが、実はその正体はいまだはっきりとはわかっていない。

例えば、ブラックホールに今まさに落下しているプラズマガスの降着流を見ているのか、それともブラックホール付近から噴出したプラズマガスのジェットなのかなど、基本的なことすらわかっていないのだ。この天体を理解することは、天の川銀河のような一般的な銀河の中心の巨大ブラックホールで何が起きているかを理解する上で重要であると考えられているのである。

画像1。銀河系の中心部と「いて座A*」の電波画像

VERAをはじめとしたVLBI観測装置は視力が非常に高く、ブラックホールの大きさに肉薄するスケールでいて座A*を見ることが可能だ(画像1右下)。つまり、謎に包まれたいて座A*の正体を探る上で重要な観測手段の1つというわけである。そこで研究チームは今回、いて座A*の変動性について着目した。

いて座A*は時期によって電波の明るさや大きさが変わることが個別に知られていたが、これまで電波の明るさと大きさを同時に調べてその関係性が調べられた研究は数例しかなかった。このような関係は、いて座A*の正体を探る上で重要な手がかりになる可能性があるという。そこで研究チームは、2005年から2008年にかけて、VERAや米VLBAを使っていて座A*の観測を実施。その結果、2007年5月にいて座A*が電波フレアを起こしていることを観測した(画像2上)。

一般的にいて座A*では電波の明るさが数時間から1日の時間スケールで変わることが知られているが、このフレアは持続時間が最低でも10日以上と非常に長く、これまでに観測された例のない種類のフレアだったのである。この観測結果からは、フレア時期の前後でいて座A*の構造や大きさに大きな変化がないこともわかった(画像2下)。

これらの観測的性質は、フレアの原因がプラズマ流内の一部の領域にあるのではなく、プラズマ流全体で何か変化が生じたということを示唆しているという。このようなプラズマ流全体で起きている現象はいて座A*の正体を探る上で重要な手がかりになると研究チームは考えている。

画像2。いて座A*で観測された電波フレア

今後、このようなフレアが起きるメカニズムや、その背景にあるいて座A*のブラックホール近傍のプラズマ流の構造に迫っていくためには、電波帯のさまざまな波長帯でVLBIの観測を行い、そのプラズマが電波帯でどのような色、つまりスペクトルをしているのか、また観測波長ごとにどのような形をしているのかを調べていく必要があるとしている。なお研究チームは、2014年3月から本格的な科学運用が始まる日韓VLBI観測網「KaVA」や国際サブミリ波VLBI「EHT」を用いた観測によって、さらに研究を進めていくとした。