NTTは、東北大学、富士通、NTTコミュニケーションズと共同で、東日本大震災の経験をふまえ、大規模災害時に通信の即時回復を可能とする「ICTカー」を開発。1月28日、プレス向けに公開した。

「ICTカー」

NTT研究所では、これまで移動式ICTユニット(コンテナ)の開発を行ってきたが、「ICTカー」はこれをさらに進化させたもの。ICTカーはバンタイプのガソリン車で、発電機、サーバ、無線機器等をモジュール化して搭載し、自立して利用することが可能。外部電源がなくても5日間の運転ができる。

「ICTカー」に搭載されたサーバやネットワーク機器

引き出された白いものは冷却剤。外気をこの中を通して冷やし、サーバケースに送って機器を冷却する

「ICTカー」を、被災地に搬入することで、半径500m程度をWi-Fiエリア化し、通信キャリアに関係なく、スマートフォンを活用した通話を可能とする。被災者がWi-Fiエリアに入ると、通話するためのアプリをダウンロード。サーバには、ソフトウェア化された構内交換機(IP-PBX)が搭載され、利用者はダウンロードしたアプリと交換機を使って、エリア内の人と内線通話する。利用する番号は自分の携帯番号そのまま利用する(他の番号を登録することも可能)。通信はWi-Fiを利用するので、契約するキャリアは関係ない。

持ち運び式の自立型Wi-Fiアクセスポイント。「ICTカー」にはこれが4セットあり、これらとICTカーと組み合わせることで、半径500m程度をWi-Fiエリア化する。装置は太陽光発電による稼動もできる

利用者が内線が利用できるまでの流れ

また、光回線や衛星回線を通してICTカーを広域網に接続することで、外線の利用も可能になる。この場合、着信については、代表者番号に一度電話し、そこから内線番号である携帯番号をダイヤルして接続するのだという。

着信の流れ(外線接続時)

また、ICTカーには、「被災者データ収集システム」を搭載し、安否情報について、顔写真と免許証や学生証などに書かれた情報(氏名・住所・性別・年齢など)をタブレット端末のカメラ機能を活用して撮影し、システムに登録することで、簡単即時に被災者情報のデータベース構築を可能とする。

具体的には、安否情報を登録する際、被災者が保有する交通系ICカードや携帯電話のIDなどを活用し、被災者の顔写真と個人情報をIDに紐づけることで、システム上で様々な被災者の管理や支援活動のサポートが可能となる。

たとえば、被災者の避難所間の移動や、被災者一人ひとりの健康状態、支援物資の受け渡し実績の管理などを被災者データとIDを活用することで、簡単迅速に実現できる。

タブレットのカメラを利用した安否情報登録システム

登録された安否情報は、外部サイト(安否情報確認サイト:J-anpiとの連携も可能にしており、必要に応じてインターネットを通じての安否情報確認もできる。

そのほか、 ICTカーには、データセンター機能を搭載しており、被災地の地方自治体や病院など複数の組織が運用しているアプリケーションなどをICTカーが提供する仮想サーバに移行することで、個々のシステムを組織ごとに簡易に運用管理することが可能。

さらに同社は、提供機能を絞り込むことで、さらに可搬性を高めた「アタッシュケース型ICT BOX」も合わせて開発。通話機能を提供するアタッシュケースには、交換機能を有するパソコン、バッテリー、Wi-Fiアクセスポイントを搭載し、被災地に持ち込むことで、即座に周辺の通話手段を提供する。

「アタッシュケース型ICT BOX」。左手前の正方形のものがPC、現在はWindows ServerでIP-PBXを稼動させている。左奥の長方形のものはバッテリ

NTT先端技術総合研究所 未来ねっと研究所 所長 高原厚氏

NTT先端技術総合研究所 未来ねっと研究所 所長 高原厚氏は、「今回のICTカーは、総務省から新しい形で災害対策を考えてほしいと言われ、2年の歳月をかけて開発した。今回は被災地でどうコミュニケーションをいち早く立ち上げるかをテーマに、移動性、柔軟性、必要最低限なものは何かを考え開発を行った。これを使えば被災地で1時間以内に通信環境を復旧でき、インフラが整備されていない地域やイベントでも利用できる」と述べた。

NTTでは、2014年2月に、高知県の2つの地方自治体(南国市、黒潮町)において、自治体および住民のご協力のもと、ICTカー活用の効果検証を目的とした実証実験を予定している。 そして、これら実証実験などを経たのち、1~2年以内に、NTTグループ各社や地方公共団体などへの導入を目指していくという。