製造業のメーカーに向けたソリューションを展開している米PTCの日本法人であるPTCジャパン。2013年12月11日に都内で開催された同社の年次イベント「PTC Live Tech Forum」で登壇した米PTCの製品開発/コーポレートマーケティング部門 上級副社長のロブ・グレムリー氏は、製造業の変革を促す"7つの力"を強調。講演後、同氏に7つの力について詳しく話をうかがった。

米PTCの製品開発/コーポレートマーケティング部門 上級副社長のロブ・グレムリー氏

7つの力とは、同社が言及する製造業が直面する外的要因のこと。グローバル化が進む製造業の中で、設計や製造のあり方、サービスなどは大きく変化しており、それに対応するためには変革が必要になるという。まずはその意味を解説しよう。

  • 「Digitization(デジタル化)」 - アナログの製品・サービス情報に代わってデジタルデータ化された精度の高い情報を、バリューチェーン(設計、製造、サービス)全体で容易かつリアルタイムに共有し、活用できるようにすること。デジタル化は"第三次産業革命"とも言われ、最近では3D CADデータを利用して3Dプリンタによる試作が進むなどしている。また、3Dデータは設計現場だけでなく、製造や営業・マーケティング、サービスの現場での活用が進んでおり、デジタル化は製造業に変化を生み出すとされている。

  • 「Globalization(グローバル化)」 - 製造業は、最適地生産や現地設計、さまざまな市場ニーズに対応した製品展開、サービスを行うなど、グローバルを意識した取り組みが必要になってきており、設計、開発、製造といった部門が世界中に分散配置されるようになった。

  • 「Regulation(規制対応)」 - 環境、健康、安全性、商取引に関わる政府や民間が取り決めた規定や業界標準に適用した製品を作ること。グローバル化が進む中、製造業は各地の規制の影響を大きく受けるようになった。これらの規制は開発段階から考慮しなければならず、また部品や素材などの購入サプライヤー管理なども重要となってきている。

  • 「Personalization(パーソナル化)」 - 地域や個人ニーズに対応した製品やサービスを効率的にカスタマイズすることが求められており、多種多様な機種・機能やデザインバリエーションなど、パーソナル化への対応が必要となっている。

  • 「Software-Intensive Products(ソフトウェア集約型製品)」 - 製品価値はハードウェアからソフトウェアに移行しつつあり、組み込みソフトの能力が製品機能を左右する。これらをうまく統合することにより、製品に新たな価値を生み出すことができる。

  • 「Connectivity(接続性)」 - モノのインターネット(Internet of Things)により、機器と機器でインターネットにつながるようになり、2つ以上の製品が相互に連携して新たな価値を生み出す。例えば、センサーと組み込みシステムを合わせて、監視や管理を行うことなどが可能となる。

  • 「Servitization(サービス化)」 - 製造業のメーカーが生産した製品を販売するという従来のビジネスモデルではなく、製品をサービスとしてそのモノのメリット自体を販売・提供すること(Product as a Service)。

なお、ロブ・グレムリー氏は7つの力を紹介する上で、オランダの医療機器メーカーであるフィリップスヘルスケアの遠隔手術システムを例に挙げ、フィリップスヘルスケアは7つの力を最大限に活用している企業だと述べている。

具体的には、製品データの活用する(デジタル化)、グローバルでのさまざまな要件に対応する(グローバル化)、医療機器や医療業界の厳しい規制に対応する(規制対応)、各地のさまざまな要件に合わせたバリエーションを提供する(パーソナル化)、製品の差別化を図る上でも埋め込みソフトウェアを非常に重視する(ソフトウェア集約型製品)、医療機器をインターネットにつなぎ、MRIのデータをWeb上のデータベース上に保存し、医師がそれを活用して診断したり、医師や看護婦が遠隔から在宅患者の症状を定期的にチェックする(接続性)、病院から在宅医療にサービスの対象がシフトしているためのサービスの強化(サービス化)。フィリップスヘルスケアは、7つの力を"危機"ではなく"機会"と捉え、新たなテクノロジーをうまく活用して競合との差別化を図ろうとしているという。

PTCは7つの力をソリューションとして企業に提供

これまで同社は7つの力の中でも、3次元CADの「Pro/ENGINEER(現: Creo)」で早くからデジタル化を推進し、PLMソフト「PTC Windchill」などによりグローバル設計とグローバル化に関わってきた。

また、ALM(アプリケーションライフサイクル管理)、およびSLM(サービスライフサイクル管理)ソリューションを近年ポートフォリオに加えた。「PTCはこれまでのデジタル化やグローバル化に加えて、規制対応、パーソナル化、サービス化など、7つの力の多くの部分にも注力していきたい」と同氏は話す。近年は同社のソフトウェアをブランドとして維持しつつ、さまざまなソフトウェアから機能をまとめて顧客のニーズに合うような価値を提供するパッケージソリューションとして提案・販売しているという。

同社が考えるソリューションの構成要素は次の三つ。1つ目はソフトウェア、2つ目は顧客が改善を検討している業務プロセスに対する専門知識、3つ目が顧客とPTCが一丸となって取り組む顧客の求める業務プロセスを改善するための強力なガバナンスだという。ソリューションとは、一連のPTCのソフトウェアを使用して業務プロセスのベストプラクティスを導入し、顧客のガバナンスを強化し、顧客が価値を実現できるようにすることだという。

このソリューションを提供するのは、大企業、中堅・中小企業を問わない。同氏は「製造業がビジネスにおいて抱えている課題は、大企業も中堅・中小企業も本質は同じだ」と述べ、すべての企業に同社のソリューションが有効であることを強調した。

日本の製造業にとっても7つの力は最重要

同社の売上比率は例年、北米・中南米、ヨーロッパが各37~38%、アジア太平洋が23~24%となり、その中でも日本市場は全体の10~11%程度を占める大きな市場となっている。同氏はこれまで製造業におけるグローバルな話題をしてきたが、日本の製造業にとって7つの力はどのように関わっているのだろうか。

同氏は「日本の自動車メーカーなどはすり合わせ型の開発を得意としてきたが、7つの力の重要性は、日本の自動車メーカーもドイツの自動車メーカーも同じ」と述べ、「製造業を取り巻く環境は7つの力により大きく変化しようとしており、従来の古い形にこだわる製造メーカーの多くは競争に生き残っていけなくなる。あらゆるところで新しい動きに対応するための"変革"が必要となり、そのためには新たな技術の採用が大前提となる」と続け、同社としては、そうした変革に挑む日本企業に向けた支援を強力に推進していくことを強調した。