生理学研究所(NIPS)は1月23日、痛みを引き起こす刺激センサである「TRPA1」をニワトリから単離し機能解析を行った結果、ニワトリのTRPA1は刺激性の化学物質および高温のセンサとして働くことを明らかにしたと発表した。

同成果は、NIPS 細胞生理研究部門の齋藤茂 助教、富永真琴 教授および鳥取大学の太田利男 教授らによるもの。詳細は、国際分子生物・進化学会誌「Molecular Biology and Evolution」オンライン版に掲載された。

TRPA1は、脊椎動物や昆虫では痛みセンサとして機能するワサビ受容体として知られており、これまでの研究から両生類や爬虫類のTRPA1が高温センサであり、高温感受性ではない哺乳類のTRPA1とは性質が異なることなどが報告されてきた。

今回の研究では、哺乳類と同じ恒温動物である鳥類のTRPA1の機能特性の解明に向け、ニワトリのTRPA1の調査が行われた。その結果、ニワトリのTRPA1はワサビの辛み成分「アリルイソチオシアネート」や他の香辛料に含まれる化学物質により活性化され、刺激性化学物質のセンサとして働くことが判明したほか、同時に高温センサであることも示され、鳥類は高温動物であるにも関わらず、その温度感受性は哺乳類よりも変温動物の両生類や爬虫類、昆虫と類似していることが示されたという。

温度刺激と化学物質刺激に対するニワトリTRPA1の応答。マウスのTRPA1は低温に反応すると報告されているが、ニワトリTRPA1は低温刺激には反応せず、高温刺激を与えた場合にのみ明瞭な電流応答が生じることが確認された。また、ワサビの辛み成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)にも反応したことから、ニワトリではTRPA1は高温と刺激性化学物質のセンサとして機能することが示された

また研究では、、鳥類の忌避剤として海外で利用される「アントラニル酸メチル」がニワトリTRPA1を活性化させること、ならびにニワトリの感覚神経においてアントラニル酸メチルによる反応がTRPA1の特異的阻害剤により抑制されることを解明。アントラニル酸メチルの忌避作用がTRPA1を介して生じていることも示された。

さらに、アントラニル酸メチルに対するTRPA1の活性については、脊椎動物種の間でも異なることも見出し、この種間多様性を利用することでTRPA1のアントラニル酸メチルの活性に重要な3つのアミノ酸を同定することにも成功したとする。

アントラニル酸メチルに対するTRPA1の活性の種間多様性と活性化に重要な役割を担うアミノ酸。アントラニル酸メチルに対するTRPA1の活性を5種の脊椎動物種間で比較したところ、ニワトリ、マウス、ヒトのTRPA1では明瞭な反応が観察されるのに対して、ニシツメガエルとグリーンアノールトカゲのTRPA1では反応が小さいことが判明したほか、ニワトリTRPA1のアントラニル酸メチルによる活性化には互いに近接した3つのアミノ酸が重要な役割を担うことが判明した

なお、今回の研究成果について富永教授と齋藤助教は、「TRPA1が鳥類の忌避剤であるアントラニル酸メチルのセンサであることが分かり、作用メカニズムを分子レベルで解明することができたほか、遺伝子の機能を多様な動物種間で比較することが作用機構を分子レベルで解明するうえで有用であることを示すこともできた」としており、この成果が、今後の効果的な鳥類忌避剤の開発につながる可能性があると説明している。

脊椎動物のTRPA1の機能的な多様性とその進化シナリオ。高温センサであるニワトリのTRPA1は、同じ恒温動物である哺乳類とは特性が異なり、むしろ、変温動物である両生類や爬虫類のTRPA1と類似していることが判明したが、これは脊椎動物ではもう1つの高温センサ「TRPV1」を維持しているため、動物種によってはTRPA1の温度感受性が変化したと考えられるするが、体にダメージを与え得る刺激を感じる能力はどの動物種にも必須であるため、いずれの動物種もTRPA1の化学物質感受性を維持してきたと考えられるという