もしドコモがTizen端末を日本市場に投入する場合、この法則に準じるならばハイエンド端末を「目の肥えたユーザーにも納得のいく」形で出さなければいけない。単純に「AppleやGoogleに縛られない自分で自由にできるプラットフォーム」という理由でTizenを選ぶのではなく、きちんとコンテンツやアプリ環境を整え、かつハイエンド端末として既存のAndroid端末やiPhoneを持つユーザーにも納得のいく製品として仕上げる必要がある。端末投入だけでは済まず、最低でも準備期間として1年近くは必要だろう。その意味で、Tizenの行く末を見守ったうえで製品投入……となると、どうしても投入時期はどんどん先延ばしとなってしまう。

逆に、海外では逃げ道として「既存のフィーチャーフォンの置き換え」としてTizenスマートフォンを市場投入することが可能だ。TizenのUIはSamsungの独自OSであるBadaに準拠しており、おそらく同社は今後Badaを順次Tizenで置き換えていくと考えられる。Bada端末は主にミッドレンジ以下の端末として世界中に出荷されており、筆者がよく訪問する欧州の国々でもラインナップとして見かける。Tizen Associationのメンバーにフランスの携帯キャリアであるOrangeが入っているが、来月のMWCの発表会ではOrangeと韓国KT/SK Telecom、あとケースによってはVodafoneを加えた4社が対応端末投入を発表する可能性がある。韓国系の2社はともかく、OrangeとVodafoneは前述Badaが占めていたミッドレンジ以下の部分にTizen端末を当てはめるのではないかというのが筆者の予想だ。

現在AndroidとiOSが築いた市場を新プラットフォームで崩すのは容易ではない。欧州ではNokia (モバイル部門は間もなくMicrosoft傘下に)のWindows PhoneであるLumiaシリーズが好調だといわれているが、実質的には価格を武器にミッドレンジ以下の市場を攻略しているのが実情だ。Firefox OSも東欧といった先進国ほどには成熟していない市場をターゲットとしており、「ミッドレンジ以下」「新興国」が第3のモバイルOSの主戦場となっている。

だが、仮にドコモを含む日本の関係者がTizenがこうした市場で成功するのを見たとして、同じ市場は日本には存在しない。先ほど、Tizenの日本市場投入の確率について言及したが、こうした事情を鑑みると限りなく可能性は低いように思える。