東北大学は1月8日、安価な有機分子と炭素材料で構成される水系大容量電気化学キャパシタを開発したと発表した。

同成果は、同大 多元物質科学研究所 サステナブル理工学センター エネルギーデバイス化学研究分野の本間格教授、笘居高明助教らによるもの。詳細は、「Scientific Reports」に掲載された。

近年、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーを組み込んだ、スマートグリッドの整備が進められている。再生可能エネルギーは電力供給変動が大きく、消費とのバランスを取るためには、大規模蓄電システムの併用が欠かせない。この蓄電システムを構成するエネルギーデバイスには、 貯蔵できるエネルギー(容量)が大きいこと、瞬間的に蓄積/放出できるエネルギー(出力)が大きいこと、低コストであること、発火の危険がなく、安全であることなどが求められる。従来、産業用バックアップ電源として、安全かつ安価な鉛蓄電池などが使われてきたが、スマートグリッド用大規模蓄電システムに利用する場合、出力が小さいことが欠点だった。このような背景から、高パワー密度と大容量を達成できる、安全・安価な蓄電デバイスの開発が望まれていた。

今回、研究グループは、パワー密度が高く安全な蓄電デバイスとして、有機分子を利用した大容量電気化学キャパシタを開発した。キノン系有機分子と、キノンにプロトンが付加したヒドロキノン系有機分子を対で電極材料に用いプロトンが両電極間を行き来することで充放電を行うという。

今回開発した電気化学キャパシタにおける電極反応

電気化学キャパシタは、容量が鉛蓄電池と比較して小さいことが、従来の欠点だった。電気化学反応を併用して、容量を大きくする試みもなされてきたが、多くの場合、金属酸化物が必要で、コストや環境負荷の面で、大規模蓄電システムに適合するものではなかった。今回使用した有機分子は、アントラキノンとテトラクロロヒドロキノンと呼ばれる物質で、水素、炭素、酸素、塩素の4つの軽元素のみで構成されているため、本質的に環境負荷が小さく、安価に作製することができる。また、水溶液電解質で動作するため、リチウムイオン電池に使われている有機電解質で問題となる、発火の危険性はない。これらの有機分子には導電性がなく、さらに電解液に溶け出してしまうため、これまで、電極材料には不向きであるとされてきたが、導電性を持つ炭素材料内部のナノ空間にこれらの有機分子を閉じ込めることで、安定な充放電反応が可能となった。

炭素材料中ナノ空間中に閉じ込められた有機分子(赤)のイメージ図

この電気化学キャパシタは、鉛蓄電池に匹敵するエネルギー密度10~20Wh/kg を軽元素のみで実現でき、さらに、急速充放電試験では、鉛蓄電池では不可能な1000W/kg(数十秒での充放電)の出力が可能なことが示された。また、上記アントラキノンに替えてジクロロアントラキノンを使うことで、サイクル特性がさらに向上し、1万サイクルを超える安定な充放電を実現した。

各エネルギーデバイスの性能比較

各エネルギーデバイスの容量と出力性能

この安全・安価なメタルフリーのプロトン型大容量キャパシタは、従来、キャパシタデバイスと鉛蓄電池とのハイブリッドシステムによって補われていた、高出力と大容量の両立が必要となる産業用バックアップ電源システムを単一のデバイスで置き換えることができ、将来的にはスマートグリッド用途をはじめとする大規模蓄電システムとしての産業的展開が期待されるとコメントしている。