単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)と産業技術総合研究所(産総研)は12月19日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の革新的カーボンナノチューブ(CNT)複合材料開発プロジェクトの成果として、eDIPS法により合成された高結晶性の単層CNT(SWCNT)に混在する金属型と半導体型のCNTを分離する技術を開発し、純度と回収率の飛躍的な改善に成功したと発表した。

同成果は、産総研 ナノシステム研究部門の片浦弘道首席研究員(TASCテーマリーダー)、ナノ炭素材料研究グループの田中丈士研究グループ長(TASC研究員)、平野篤研究員(TASC研究員)、ナノチューブ応用研究センター 流動気相成長CNTチームの斎藤毅研究チーム長(TASCサブグループリーダー)らによるもの。詳細は、2014年1月29~31日に東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2014」にて展示される予定。

(左)大量分離されたeDIPS-SWCNT溶液、(右上)代表的な金属型と(右下)半導体型のCNTの分子模型(CNTは通常それぞれ1:2の割合で合成される)

SWCNTは炭素原子の並び方によって、金属的な性質と半導体的な性質を示す。通常、SWCNTはこれら電気的性質が異なったものの混合物として合成されるため、合成したSWCNTをそのまま使用する場合、用途は限られる。金属型SWCNTは通常の金属と同様に、電気をよく流すタイプのCNTで、優れた導電特性と強度を併せ持った極細の繊維であることから、2次元のネット状に成膜することで、極めて薄い膜でも良好な導電性が得られ、ディスプレイの透明導電膜に用いられているITOを代替する材料として応用できる。また、半導体型SWCNTは、トランジスタやICの原料であるシリコンやゲルマニウムと類似の導電特性を持つCNTである。半導体型SWCNTは、ナノメートルサイズのトランジスタへの応用や、薄膜化してフレキシブルなトランジスタへの応用ができ、比表面積が大きいことから、超高感度のセンサとしての応用にも期待できる。SWCNTを高純度に金属型と半導体型へ分離できれば、将来的には、金属型SWCNTを配線に、半導体型SWCNTをトランジスタに用いた、超高集積・超高速かつ環境負荷の低いSWCNTコンピュータの実現も考えられる。

しかし、現状では、電気的性質の異なるSWCNTを選択的に合成する効率の良い手法がないため、合成後にSWCNTの混合物を金属型と半導体型へ分離する方法がとられている。ゲルカラムを用いる手法や密度勾配超遠心を用いた手法など、いくつかの分離法が開発されているが、産業への応用を実現するためには、より安価で大量に分離する方法が求められている。

これまでにSWCNTを金属型と半導体型に分離する手法として、産総研はアガロースゲルに固め込んだ状態のSWCNT含有ゲルを電気泳動で分離する手法、電場を用いずに分離する手法、そして、アガロースゲルカラムを用いて大量に分離する手法を開発してきた。このうち、カラムを用いた手法は、大量・安価にCNTを分離することが可能であり、産業生産に最も適した手法であるという。しかし、ゲルへの吸着力が弱いSWCNTを高純度分離するには改良が必要だった。

そこで、SWCNTとゲルの吸着反応を制御することで、金属型・半導体型SWCNTの分離工程の高効率化を実現した。SWCNTは、電気的性質の違いによってアガロースやセファクリルなどのゲルへの吸着力が異なる。金属型SWCNTはゲルへの吸着力が弱いのに対し、半導体型SWCNTは強いため、ゲルカラムにSWCNT分散液を通すだけで、SWCNTを金属型(ゲルに吸着しない)と半導体型(ゲルに吸着)へ分離することができる。しかし、半導体型SWCNTは、直径に反比例してバンドギャップが小さくなるため、太くなると電気的性質は金属型に近づく。そのため、直径が大きくなるほど半導体型SWCNTのゲルへの吸着力は小さくなり、金属型と半導体型への分離が困難になる。

今回、あらかじめ分離した高純度の金属型および半導体型SWCNTを用いて、様々な溶液条件下でのゲルに対する吸着の定量解析を行った。その結果、SWCNTのゲルへの吸着力がSWCNTの電気的性質だけでなく、溶液の環境にも依存することを発見した。pHを減少させたり、塩などの溶質濃度を増加させたりすると、吸着力は低下する。逆に、pHを増加させたり、溶質濃度を減少させたりすることによって、吸着力を増加させることができたという。

このような性質は、SWCNTに吸着している界面活性剤の密度の変化で理解することができる。SWCNTのゲルへの吸着力は、SWCNT表面の界面活性剤密度が増加すると弱まることが知られている。pHの減少によるSWCNTの酸化や、溶質濃度の増加による静電遮蔽効果によってSWCNT表面の界面活性剤密度が増加することにより、SWCNTのゲルへの吸着力が低下すると考えられる。

(上)金属型および半導体型SWCNTのゲルへの吸着力のpH依存性。色が濃いほど吸着力が強い。金属型は弱酸性下で、半導体型は強酸性下で吸着力が弱まる。(下)ゲルに吸着する半導体型SWCNTの純度指標と収率指標のpH依存性グラフ。pH6付近では純度が高く、pH8-10では収率が高い。pHを調整することで、純度と収率を制御できる

TASCでは、これまでも合成した結晶性の高いeDIPS-SWCNTの金属型・半導体型SWCNTの分離と試料提供を行ってきたが、今回の技術を利用することで、分離の収率や純度を自在に制御することができ、高効率な分離試料調製が可能となった。今後、同手法を用いて高純度に分離した金属型および半導体型eDIPS-SWCNTを、数十mgの単位で引き続き無償提供を行っていく。基本的な試料形態は水分散液だが、要望に応じて有機溶剤分散液などにも対応する。この取り組みで、金属型および半導体型SWCNTの用途開発を活性化していくとコメントしている。