物質・材料研究機構(NIMS)は12月16日、超極薄のグラフェン(単層もしくは数層)を、張り子のように3次元的な骨格に貼り付けた構造体を創り出すことに成功したと発表した。

同成果は、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の板東義雄フェロー、王学斌博士研究員、GOLBERG Dmitryユニット長らによるもの。詳細は、「Nature Communications」に掲載された。

2次元結晶であるグラフェンは、電気的、光学的、力学的に優れた物性を持つことから、電池材料、吸着剤、触媒担持体、様々な複合材の要素として期待されている。実際の応用を考えた場合、グラフェン同士の縁をつなぎ合わせ、大きな構造体を作る必要があるが、そもそも鱗片上のグラフェンは、ファンデルワールス力によってその面同士が互いにくっつきやすくグラファイト状の構造を作りやすいため、極薄のグラフェン状態を保ったまま縁をつなぎ合わせ、かつ、機械的強度を持った3次元構造体を作り出すことは極めて困難な課題であった。

これまで、グラフェンを用いた3次元構造体を作製する試みとして、カーボンナノチューブを支柱とした構造や、金属や酸化物の構造体を用いたグラフェン複合材、表面張力による自己形成を利用したグラフェンを含むゲル材などが提案されてきているが、いずれの場合も、強固な3次元の構造体を作製することができなかった。

今回の研究では、吹き飴技法に着想を得たケミカル風船法を用いて、3次元グラフェン構造体の合成に成功した。同構造体は構造的に安定な細い骨格にグラフェンを貼り付けた提灯や張り子を思わせる構造をしている。ケミカル風船法では、まず出発原料であるグルコース(砂糖)と塩化アンモニウムの混合物を約250℃で加熱し、溶融したシロップ状のポリマーを作製する。この時、塩化アンモニウムから化学的に放出されたアンモニアガスが、ポリマーを風船のように膨らませ、吹き飴のごとく多数の気泡ネットワークを形成する。そして、気泡が大きくなるとともに、気泡の皮が薄くなる。ガスの発生により薄くなった気泡の皮は、その後1350℃での高温処理によってグラフェンに変化する。

吹き飴技法に着想を得た新しいグラフェン3次元構造体の製造方法であるケミカル風船法の模式図。グルコース(砂糖)と塩化アンモニウムの混合物をポリマー化し、化学反応で発生するアンモニアガスを利用してポリマーを膨らませ、ポリマーの泡を多数生成する。その後、高温で加熱することで、ポリマーをグラフェンに変化させる

できあがった構造体は、気泡が集まった構造をしており、その密度はわずか3.0mg/cm3程度と軽量だった。各気泡は多面体をしており、多面体の辺は3個ないし4個の気泡に共有されている。各辺はグラファイトで構成されており、十分な機械強度を持っている。さらに、多面体の面は、極薄の単層もしくは数層のグラフェンからなり、辺を形成するグラファイトで強固に支えられ、まさしく、張り子のような構造を持っていることが分かる。

今回、創り出されたグラフェン構造体を電極として用いたキャパシタ(蓄電器)は市販されているスーパーキャパシタのエネルギー密度のレベルを維持しつつ、最大出力密度893kW/kgという極めて高い性能を持っていることが明らかになった。この値は、これまでにカーボン系材料を用いたキャパシタで報告されている値の1桁以上の高い値を示すものである。

(左)3次元張り子構造を持ったグラフェン構造体の生成物(重さ70mg)の写真、(右)グラフェン構造体の走査電子顕微鏡像とその3次元構造体モデル(図中に挿入)

今回の研究で用いたケミカル風船法は、従来3次元構造体を作るために提案されてきた手法に比べ、いくつかの点で優れている。まず、原材料として用いているグルコース(砂糖)が0.3円/gと極めて安価であること、さらに、生成効率が良く、キログラムやトンといった量産も容易なことである。また、グラフェンの超薄膜を創製するだけでなく、窒化ホウ素、炭窒化ホウ素など様々な組成を有する3次元ナノ構造体を合成する手法として広く利用することが可能である。

3次元グラフェン構造体はスーパーキャパシタの電極材料としての応用だけでなく、触媒担持体、吸着剤、水素吸蔵材料、ガスセンサ、ガスフィルタ、吸音材など、現行のポーラスカーボンを置き換える新素材としての幅広い応用が期待できるとコメントしている。