東北大学は11月7日、露・チェリャビンスク市の上空で爆発を引き起こした隕石を解析する国際コンソーシアム研究に参画して隕石試料の同位体宇宙化学的解析を実施した結果、同隕石を構成する元素の内で最も多い酸素の同位体比は地球の岩石の組成と異なり、小惑星起源のコンドライト隕石と同一であることを確認し、さらに同隕石は小惑星探査機「はやぶさ」が回収した小惑星「イトカワ」の微粒子とほぼ同一の酸素同位体組成であることも示したと発表した。

成果は、東北大大学院 理学研究科・地学専攻の中村智樹教授、同・アン・インスー博士らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、11月7日付けで米科学誌「Science」に掲載された。

2013年2月15日に起こったロシア・チェリャビンスク市への隕石落下は、記憶に新しい方も多いことだろう。1908年に起きたツングースカ大爆発以来の大きな空中爆発を引き起こし(画像1)、まだ1カ月半以上残っているが、2013年のサイエンストピックランキングで、おそらく最上位グループに入るであろうという衝撃的なできごとだった。その際に発生した衝撃波により1200名が負傷し、また輝度は太陽より明るく、発生した紫外線でやけどを負った人もいるほどだったが、死者が出なかったのは正に不幸中の幸いで、改めて隕石の落下という宇宙からの脅威を感じた人も多かったのではないだろうか。

その落下の様子はこの2010年代だけに市民の携帯電話のカメラ、施設などに設置された監視カメラ、音波計測機器など、さまざまな観測機器で測定された。それらのデータから解析された結果、高度約30kmの上空でチェリャビンスク隕石は分裂し、それに伴う温度上昇により隕石は大爆発を起こしたと結論づけられたのである(画像1)。

画像1。高度30km付近での空中爆発の様子。横軸は高度(km)。縦軸は時間(秒)

チェリャビンスク隕石は空中で爆発した後、最終的には約5トンの破片が地上に降り注いだと推定されているが、その質量は元の全質量の1%にも満たないとされ、大部分は空中で蒸発したか分裂して塵になったと考えられている。

回収された隕石(画像2)の詳しい分析により、この隕石はもともと小惑星上で大きな衝突を経験し、衝撃による割れが隕石中に形成され、それにより隕石強度が下がり、地球落下時の空中での分裂につながったことがわかった。また、隕石の主要鉱物の化学組成、および酸素同位体比組成などから、チェリャビンスク隕石はLLタイプのコンドライト隕石であることがわかった(画像3)。

さらに解析を進めると、例えば隕石の主要鉱物である「カンラン石」の鉄とマグネシウムのモル比を百分率で表した「Fa数」は「28.65±0.54」であり、この値ははやぶさが回収したS型小惑星「イトカワ」の微粒子に含まれていたカンラン石のFa数の「28.46±1.17」と(ほぼ)一致した。また、酸素同位体組成もイトカワ微粒子とほぼ一致することが判明。これらの事実からチェリャビンスク隕石はイトカワと同様のS型小惑星を起源とすることがわかったというわけだ。

画像2(左):チェリャビンスク隕石の岩石片(横4cm)。黒い脈は小惑星上での衝突による岩石溶融脈。 画像3(右):チェリャビンスク隕石の酸素同位体比(東北大学による3つの岩石片の分析値)。グラフの原点は地球の標準海水の酸素同位体比である。チェリャビンスク隕石はコンドライト隕石(H、L、L/LL、LL)の内、LLタイプのものと同じ同位体比を示した。また、小惑星イトカワとも同じ組成を示している

大型の隕石(彗星や小惑星の欠片)の衝突が、地球の46億年の歴史において、過去に大規模な気候変動や、恐竜などの大量絶滅の原因とされている。チェリャビンスク隕石はそうした地球規模での被害をもたらす隕石と比べれば小型ではあった、それでも現代の高度な技術によって観測することに成功し、どのように、またどの程度地球に被害を及ぼすのかということを、定量的に理解することに成功した点は大きな意義だとしている。それに加えて、詳しい化学分析により、チェリャビンスク隕石が初期太陽系の進化過程を記録する科学的に貴重な試料であるということ示したことも重要な成果だとした。