近畿大学(近大)は10月31日、呼気だけでパソコンのマウスを全方向に動かすことが可能な「呼気マウス」を開発したと発表した。

同成果は、同大生物理工学部 人間工学科人間支援ロボット研究室の北山一郎 准教授、同 中川秀夫 准教授らによるもの。

重度の障がい者においては、下肢、上肢ともにその機能が低下し、自由に身体を動かすことが困難な場合があるが、呼気は人間が自分の意志で制御できる最後の機能の1つであることから、その活用が模索されており、これまでにもストロー状の管を口に含み吹いたり吸ったりすることでスイッチのオン/オフを切り替える「呼気スイッチ」などが開発・利用されてきた。

しかし、従来の呼気スイッチは、テレビや照明のオン/オフといった限定的な機能に限られていたほか、作業メニューをスキャンする機能を搭載することで、必要とする作業を選択可能にできたが、スキャンの待ち時間が長いなどの課題があった。

今回開発された「呼気マウス」は呼気の「強く吹く/弱く吹く/強く吸う/弱く吸う」という4種類の呼気にマウスを対応させ、呼気量により入力装置を多チャンネル化することで上下左右の動きを制御することを可能としたもの。これにより呼気だけで、パソコン上のマウスカーソルを上下左右自由に動かせるようになるほか、マウスの右クリックと左クリックも、呼気の時間と強さ設定することで実現しているため、パソコン上に示されたメニューを選択できるだけでなく、スクリーン(ソフトウェア)キーボードなどを活用することで、文字を任意に選択する文字入力も可能になったという。

呼気マウスで画面上のカーソルを動かしている様子。上下左右の移動は息の強弱と吸う、吐くの組み合わせで実現。右クリック・左クリックは、短く強く吸う、吐くの組み合わせで操作する

なお、今回の研究は、四肢に障害を有する"重度障がい者がロボットに指示を与える入力システムを開発する"ことを目的に実施されたもので、最終的には頸椎が損傷される、あるいは筋委縮性側索硬化症(ALS)を発症するなどの重度障がい者を支援する半自立型のロボットの開発を最終目的に研究を継続していくとしており、将来的な重度障がい者の、ソーシャルネットワーキング・サービスの活用や他者とのコミュニケーション促進といった、生活の質の向上に結び付けることを目指したいとしている。

左が呼気マウスで流れる呼気の量を図る流量センサ。右が呼気マウスの変換器