ポーラ化成工業は10月28日、細胞の核の変形が皮膚の状態に影響を及ぼすと考察して研究を進め、コラーゲンやヒアルロン酸などの真皮の成分を産生する「真皮線維芽細胞」に圧縮を加えると、細胞の核が変形することを発見し(画像1)、また核が変形した線維芽細胞では、コラーゲンや「エラスチン」といった真皮を構成する成分を分解してしまうタンパク分解酵素が増加していることを見出した(画像2)と発表した。研究の詳細な内容は、2013年12月3~6日に神戸で開催される「第36回日本分子生物学会年会」にて発表される予定である。

画像1(左):圧縮による核の変形(代表例)。 画像2(右):核の変形により増加するタンパク分解酵素

ヒトなどの真核生物の体を形作っている細胞には、その生物の設計図である遺伝子が格納されている細胞小器官の「核」があることは、よく知られた事実だ。核は「核膜」という膜で細胞のほかの部分と隔てられており、核膜を通じた核内と核以外の細胞内との間で遺伝子転写産物メッセンジャーRNA(mRNA)やタンパク質などの物質の移動により、細胞のさまざまな機能が制御されている。このことから、核膜は細胞の正常な機能に重要な役割を担っていると考えられているというわけだ。

そこで同社の研究者たちが着目したのが、肌が表情の変化に伴い、屈曲し、曲がった部分が圧縮されること。横方向の圧縮が真皮線維芽細胞の核の形態に与える影響を検証することにしたのである。その結果、慢性的に圧縮を負荷した培養真皮線維芽細胞では核が変形すること、それによって核変形の原因タンパク質の「異常ラミンA」の増加を伴うことが発見されたというわけだ。

異常ラミンAとは、核を包む核膜の内側でその裏打ち構造を取って核の形態を整えているタンパク質「ラミンA」が、遺伝性疾患や加齢、紫外線によりその一部が欠損したもののことをいう。異常ラミンAが増加すると、核が変形してしまうのである。

また、真皮線維芽細胞の核の変形が原因と考えられる「早老症」で、皮膚が若い内から固いことに着目。核の変形を人為的に引き起こした真皮線維芽細胞において各種タンパク分解酵素のmRNA発現に関しての解析が行われ、その結果として、「コラゲナーゼ」、「ゼラチナーゼA」、「ストロメライシン1」、「ストロメライシン3」といった、コラーゲンやエラスチンなどの真皮を構成する成分を分解するタンパク質分解酵素が増加することが発見された。これは核の変形の結果により引き起こされていると考えられるという。

これらのことから、シワ部位などの慢性的に肌の屈曲が起こる部位は、真皮線維芽細胞の核に変形が生じやすい環境であり、皮膚の弾力性低下に伴い肌の老化が促進されやすい状態であると考えられるとした。

前述した研究を基に素材を探索した結果、「党参(とうじん)抽出物加水分解液」に、核の変形に対する効果が見出された(画像3)。さらに、原因タンパク質「異常ラミンA」に対しても効果があることが確認されたのである(画像4)。なお党参はキキョウ科ツルニンジン属ヒカゲノツルニンジン(学名:Codonopsis pilosula)の根で、漢方では内臓機能を上げ、活力を高めるといった作用を期待して、穏やかな強壮効果を持つ補気薬として用いられている。この党参から抽出した成分を加水分解させた液が党参抽出物加水分解液だ。

核の変形を作為的に引き起こした真皮線維芽細胞に各種化粧品原料を添加し、前述した画像2にある4種類のタンパク分解酵素のmRNA発現を指標に評価した結果、「ボタンエキス」に、増加したタンパク分解酵素を抑える効果が見出された(画像5)。

なおボタン(学名:Paeonia suffruticosa)はボタン科ボタン属の落葉低木で、観賞用、薬用植物として栽培されている。根の皮は鎮痛、血行改善、消炎などの作用を期待して、漢方の「牡丹皮」という血中の熱を除去する薬として用いられている。この牡丹皮から抽出された成分がボタンエキスだ。

画像3(左):核の変形に対する党参抽出物加水分解液の効果(代表例)。 画像4(中):党参抽出物加水分解液の異常ラミンA増加に対する効果。 画像5(右):核の変形により増加するタンパク分解酵素に対するボタンエキスの効果

なお、画像2~5の実験条件だが、ラミンAを異常ラミンAに変化させる試薬を使用して、人為的に核の変形を誘導した真皮線維芽細胞を作ることができるので、同手法にて作製した細胞が培養され、細胞から回収した各種タンパク分解酵素のmRNAがリアルタイムPCRにて測定された。

「党参抽出物加水分解液」「ボタンエキス」はいずれもその効果により、肌悩みの解決に貢献することが期待されるとしている。なお今回の成果は、2014年1月に系列企業で化粧品メーカーであるポーラから発売される新製品に活用される予定とした。