東北大学とファインセラミックスセンターは10月18日、隕石中に存在する磁鉄鉱ナノ粒子の磁区構造をホログラフィ電子顕微鏡(日立製 HF3300-EH)を用いてナノレベルで観察した結果、天然では例のない渦状構造を持っていることを発見し、それにより太陽系形成期に小惑星内部の無重力空間に浮かぶ水滴の姿を明らかにしたと共同で発表した。

成果は、東北大 理学研究科の木村勇気助教、同 中村教博 准教授、同・中村智樹 教授、同・塚本勝男 教授、同・大学 金属材料研究所の野澤純 助教、ファインセラミックスセンターの山本和生 研究員、同・佐藤岳志 研究員(現・日立ハイテクノロジーズ)らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、10月23日付けで英科学誌「Nature Communications」に掲載された。

46億年昔に冷たい分子雲が収縮して太陽系が誕生する際には、宇宙物質の蒸発や凝縮、衝突合体などのプロセスを経て惑星や小惑星などの天体も太陽とほぼ同時に作られた。よって、小惑星の欠片である隕石には、大きな惑星ではすでに失われている太陽系形成期の環境を読み解くカギが残されているという。例えば、有機物の進化や鉱物の変質に大きな影響を及ぼす水が小惑星に存在していたという証拠が、隕石中の熱水鉱物の岩脈や岩塩中に取り込まれた水という形として残っているのである。

今回分析に用いられた「タギシュレイク隕石」中は、2000年1月18日にカナダに落下した隕石だ。落下後すぐに回収されたことから、地球物質による汚染や変質が極めて少ないのが特徴だ。D型小惑星起源で炭素質コンドライトに分類されている。

また同隕石に含まれる磁鉄鉱は、「サーペンティン」や「サポナイト」のような含水鉱物と一緒に見つかっていることから、小惑星中での水質変質によって形成されたことがわかっていた。それにより、含水鉱物を含む炭素質コンドライトの進化に関していくつかのモデルが提案されている。しかし、隕石中にはすでに液体の水そのものは見られず、小惑星の形成後、いつどこでどのようにして枯渇したのかはわかっていなかったというわけだ。

岩石や鉱物の残留磁化は、形成環境やその後に経験する温度履歴にとても敏感であるため、古地磁気学の手法として古くから使われてきた。タギシュレイク隕石の塊としての磁化もこれまでに調べられており、4~9μmの大きさの「多磁区構造」の磁鉄鉱に由来し、弱い磁場環境下で生成したことが報告されている。なお磁石は、多くの極小磁石が同じ方向を向くことで鉄を引きつける力が生まれる仕組みだが、磁区とは、この極小磁石がそれぞれ同じ方向を向いている領域のことをいう。

2011年に研究チームを含むグループは、直径110~680nmの磁鉄鉱粒子が3次元的に規則正しく並んだ「コロイド結晶」がタギシュレイク隕石中に存在していることを報告している。なお、粒子サイズが~μm程度で溶液中に分散している状態(凝集や沈殿を起こさない)をコロイドと呼び、コロイド結晶とは、そのコロイド状態の粒子によって構成される周期的な規則配列集合体のことをいう。

そして磁鉄鉱粒子は通常は磁石の引きつけ合う力で枝状に集まるが、隕石中には形と大きさが均一な粒子が3次元的に規則正しく並んだコロイド結晶として存在していることがある。研究チームは今回、その磁鉄鉱粒子を取り出し、磁場や電場を直接観察することが可能な電子線ホログラフィ専用の透過型電子顕微鏡の1種である「ホログラフィ電子顕微鏡」を古地磁気学の分野に適用することで、ナノ粒子個々の残留磁化を6nmの分解能で調べることに成功したというわけだ。これにより、ナノ磁鉄鉱粒子が渦状に自らの磁力線を閉じ込める構造を有していることを天然の試料で初めて発見したのである。

コロイド結晶は反発力で並ぶため、その生成には閉じた空間が必要だ。この渦状の磁区構造が磁石の引きつける力を内部に閉じ込めると、水の蒸発と共に行き場を失った粒子が初めて並ぶことができる。ただし、通常の磁鉄鉱粒子の磁区構造だと、磁石の引きつけ合う力で枝状に集まってしまう。しかし、その特殊な磁石の性質とコロイド結晶生成の反発力とを考えることで、タギシュレイク隕石の母天体である小惑星内部の水が無重力下で水滴状になって蒸発してゆく様子が解明されたというわけである(画像1・2)。

小惑星内部の無重力中に浮かぶ水の最後の瞬間と磁鉄鉱コロイド結晶の生成モデル。 画像1(左)、(a)が小惑星にほかの天体が衝突した結果、振動により内部で水滴が多量に作られ、無重力中に浮かぶ。その後、水はゆっくりと蒸発し、水中に溶け込んでいたイオンの濃度が上昇。高過飽和になった水滴から、一度の均質核生成イベントにより、均一な形と大きさを持った磁鉄鉱ナノ粒子が形成され、渦上の内部磁区構造はこの時に作られる。 画像2(右)、(b)が電子線ホログラフィ法により得られた、直径約180nmの磁鉄鉱ナノ粒子の磁束分布像。同心円状の縞模様は磁力線が巻いていることを示しており、外部への漏れ磁場はないことがわかる。(c)が画像1の中央にある粒子形成後の水滴内部の拡大図。点線は粒子の表面電荷が作る「デバイ遮蔽領域」(表面電荷によって引きつけられた反対符号のイオンが分布している領域で、このイオンの雰囲気によって粒子同士は反発する)を示す。矢印で示した長さがデバイ遮蔽長。表面電荷による反発力で分散し、水の蒸発に伴って、行き場を失った粒子同士は反発し合いながら3次元的に整列し、コロイド結晶が形成される。水がさらに蒸発した後、コロイド結晶は保存されるというわけだ。(d)が実際の磁鉄鉱コロイド結晶の走査電子顕微鏡像。スケールバーは1μm

今回の発見は、水が干上がる状況を初めてとらえた成果といえ、煮詰めたスープのように化学種が濃縮した水と、鉱物、有機物との相互作用から、いかに有機物の初期進化と隕石中に見られる鉱物の形成が進んだかの解明につながるという。また、磁性粒子のコロイド結晶は、未来のデバイスとしての可能性を秘めており、今回の発見は今後の合成へのきっかけにもなりえるとしている。