「スネップに希望を与えるホワイト企業はある」と玄田有史氏

 ニートとも引きこもりとも違う、新しいタイプの孤立無業者、通称「SNEP」が日本に162万人もいるという驚くべき報告が出た。名付け親はニート研究の第一人者でもある東京大学社会科学研究所教授の玄田有史氏だ。

「孤立無業者がこのまま増え続ければ、日本の社会的なコスト増大は計り知れない」と警告する玄田氏に、SNEPになりやすい人の特徴や、孤立無業から抜け出す手段を聞いた。

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――SNEPとは20歳以上59歳以下の未婚無業者で、家族以外は社会との接点を持たない人々と定義しています。その他、どんな特徴が挙げられるのでしょうか。

玄田:まず男性に多い点です。日本では勉強ができて、いい会社に入らなければ将来はないといったプレッシャーが女性よりも男性のほうが受けやすい。それが重荷になって、一度躓くと「もうダメだ」と考えて、社会参加を困難にさせているケースが多いのです。

 居住地域や世帯の裕福さなどによる違いはみられませんでしたが、少し意外だったのは「健康ではないが通院していない」人ほど、SNEPになりやすくなっていたことです。うつ病や自閉症といった治療・療養を一生懸命行っている無業者は、むしろ社会復帰に向けて積極的に活動をしている人々なのです。

――他人との直接的な付き合いはなくても、インターネットやメールでの交流はあるのでは?

玄田:これも調べてみて意外だったのですが、SNEPは決して“ネット中毒者”ではありません。電子メールやインターネットを通じた情報検索・収集にあまり積極的ではなく、むしろ長時間テレビを観て、睡眠時間も長い。昭和のアナログ時代の無業者と変わらない印象を持ちました。

――まだ家族がいれば会話もあるでしょうが、一人型の無業者は本当に孤独ですね。

玄田:一人型の孤立無業は、朝起きるのも遅く、部屋の掃除もあまりしない割合が高いことが分かりました。深夜も含めてめったに外出しない生活を送っている人も多いので、精神的に不安定で、趣味や関心事も少ない。もちろん結婚願望も乏しいといえます。

 また、貯金や財産が十分でないために、強い老後不安を感じていることも多いのです。いざとなったら生活保護を受けるのも致し方ないと思っていたり、すでに受給している場合も少なくありません。

――SNEP対策の第一は、「無業」から抜け出す前に「孤立」から抜け出す必要があると思います。周囲に悩みや相談を打ち明けられる人がいないとドロ沼にはまるばかりです。

玄田:私もそう思います。とにかく自分の関心あるところに行って、そこで同じ趣味の仲間と出会ったり、「こういうのが好き」「僕も好き」と会話できる関係を築くことから始めてほしいです。

 いまの時代、特に若い人の間で、人と深くかかわることを避ける風潮が強まっている気がします。そのために本当に困ったときにでも、相談したり悩みを直接打ち明けられる友達もいない。ネットで人間関係を広げたくても、誰も自分とつながってくれない。そんな自分を受け入れてくれない社会が広がっていることに、やり場のない気持ちが膨れ上がり、孤立していく現象が起きているのでしょう。

――家族型SNEPも、親は頼りにならないのでしょうか。

玄田:親を頼るというより、働かずに親に悪いなという気持ちと、親が自分のことを甘やかすからこうなっているという、なんともいえない気持ちが交錯し、親子関係はうまくいっていないケースが多いのです。

 ここは親もあえて子供を突き放すことも必要です。親が親として自分の人生を大事にして生きることは、じつは結果的にSNEPの子供の自立につながることを分かってほしいです。

――肝心の就職ですが、どうしたらうまくいきますか。

玄田:自分でできることから少しずつやっていけばいいと思います。雇用形態は正社員だろうがアルバイトだろうが構いません。

 よくSNEPは無業期間が長いために履歴書の空白を見た会社の面接官から、「何だお前、ずっと引きこもりか」みたいなことを言われてパニックになる人もいます。でも、変わろうとしている自分の勇気を正直に話せば、きっと分かってくれる企業はあります。

 世の中ブラック企業が話題になっていますが、ホワイト企業もちゃんとあります。「よし、わかった。一人前になるまで苦しいけど、頑張れるか?」って希望を与えてくれる会社がなければ、日本はとっくの昔にもっとダメになっていたはずです。

 私はSNEPという新たなレッテルを貼ろうとは毛頭思っていません。社会病理のひとつとして存在することを認めることが大事なのです。SNEPやその家族のことを他人事と考えるのではなく、みなで理解し、自分たちの問題としてその解決方法を模索していくことが孤立無業者を一人でも減らす近道なのです。

【玄田有史/げんだ・ゆうじ】
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、ハーバード大学やオックスフォード大学の客員研究員、学習院大学教授などを経て、東京大学社会科学研究所教授に就任。『ニート』(幻冬舎)、『希望のつくり方』(岩波新書)など著書多数。最新刊に『孤立無業(SNEP)』(日本経済新聞出版社)がある。