九州大学(九大)は10月1日、島津製作所、ブルカー・ダルトニクス、東京工業大学(東工大)との共同研究により、緑茶に多く含まれさまざまな健康増進効果が知られている緑茶カテキンの1種(緑茶ポリフェノールの1種)である「EGCG(Epigallocatechin-3-O-gallate)」ならびにその代謝物が体内でどのように分布するのかを視覚的に確認できる新しい質量分析イメージング技術「マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析イメージング」の開発に成功したと発表した。

成果は、九大大学院 農学研究院の立花宏文 主幹教授、同・大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点の藤村由紀 准教授、島津製作所の山口真一氏、ブルカー・ダルトニクスの齋藤和徳氏、東工大 大学院理工学研究科 応用化学専攻の田中浩士 准教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間9月30日付けで英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

機能性食品成分の保健効果の仕組みを明らかにするには、成分摂取後の体内においてどこに、どのような形で存在し、生理活性を発揮するかの情報が必要不可欠だ。しかし、今までの分子イメージング技術では食品成分とその代謝物まで同時に可視化することはできなかった。このことは、従来の分子イメージング法が可視化のための標識化工程(ターゲット成分に目印をつける作業)が必須であったことに起因するという。そこで研究チームは今回、従来の標識化にまったく依存しない質量分析イメージング法を開発し、さまざまな健康増進効果が報告されている緑茶カテキンの1種であるEGCGの体内分布情報の可視化を試みたというわけだ。

質量分析イメージング技術とは、標識せずに異なる質量のイオン化した物質を一斉に可視化する技術のことをいう。そんな質量分析イメージング技術を用いてEGCGの分布を可視化するためには、当然ながらEGCGをイオンにする必要がある。

研究チームは、物質のイオン化を補助する有機化合物を探索することで、ある種の「ジアミノナフタレン溶液」とEGCGと混合してレーザー光(波長=337nm)を当てることで、EGCG分子が飛び出してイオンになることを発見。ジアミノナフタレン溶液は、樹脂原料や有機溶剤などに使われる有機化合物の1種である。

マウスにEGCGを飲ませ、1時間後に肝臓と腎臓を取り出して、凍結薄切片を作成。これにジアミノナフタレン溶液(マトリックス)を吹きかけてから、質量分析装置で測定。得られた複数のイオンからEGCGと共にEGCG由来の代謝物イオンを取り出し、それらの分布が同時可視化に成功したというわけである。

その結果、EGCGを投与したマウス肝臓と腎臓でEGCGの可視化に成功し、それと同時に両臓器でEGCG代謝物の同時画像化が可能となった。また、EGCGの分布は肝臓では一様なのに対し、腎臓における分布は部位により異なること、複数の代謝物の分布との間にも差異があることが明らかにされたのである。

MALDI質量分析イメージングは、レーザー照射により対象物質をイオン化させる有機化合物(マトリックス)を用いることで、非標識で異なる質量(m/z)の物質の分布を一斉に可視化できる技術できる技術というわけだ。

従来の標識化法の欠点を克服できる今回のマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析イメージング技術は、その実態が不明瞭であった緑茶カテキンの保健効果の解明に寄与すると共に、同技術を応用することで、さまざまな機能性食品成分や薬剤の簡便な局在解析と体内動態の理解に役立つことが期待されるとしている。

画像1。MALDI質量分析イメージングの計測の仕組み