世界最大級のデジタルマーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo(アドテック東京)2013」から、SMMLabが参加したセッションをレポート! 今回はいまやマーケティング・コミュニケーションを考える上で欠かせない要素となった「ソーシャルメディア」をメインテーマとしたセッションをご紹介します!

今回は2日目の午後に行われた「ソーシャルメディア」のトラックから、「ソーシャルメディアで本当に“ヒト”が集まり、“売り上げ”を上げることが出来るのか?」という刺激的なタイトルのセッションをレポートします。現場の実践者としてソーシャルメディアを積極的に活用するスピーカーによる熱い議論からは、「検討」から「実践」のフェーズに入った言われるソーシャルメディアの課題と未来が見えてきました。

[A-7]ソーシャルメディアで本当に”ヒト”が集まり、”売り上げ”が上げることが出来るのか?

モデレーター

中村 壮秀
アライドアーキテクツ(株) 代表取締役社長

スピーカー

廣田 周作氏
(株)電通 プラットフォームビジネス局 開発部

上代 晃久氏
日本マイクロソフト(株) ソーシャルメディア マーケテイング リード

西井 敏恭氏
(株)ドクターシーラボ マーケテイング部 eコマースグループ グループ長

経沢 香保子氏
トレンダーズ(株) 代表取締役

アライドアーキテクツ(株) 代表取締役社長 中村 壮秀

マーケター、エージェンシー、ソリューションプロバイダーが、それぞれの立場からソーシャルメディアのマーケティング活用ついて、最新事例や効果検証の考え方、組織としての取り組み方等を語った[A-7]セッションでは、弊社代表の中村がモデレーターを努めさせていただきました。

まず、中村はこのセッションを「経営者にソーシャルメディア活用の意義を理解してもらうための会議」と設定し、ソーシャルメディアの活用に懐疑的な上司が「聞きそうな質問」をテーマにディスカッションをスタートしました。仮想上司として「ad:tech tokyo(アドテック東京)2013」主催社ディーエムジー・イベンツ・ジャパン株式会社の代表取締役社長武富正人氏の画像が映し出されると、会場内からは笑いが起こりフランクなムードに包まれました。

上司からの質問「そもそもソーシャルで売れてるとこ見せてくれないか?」

いきなり核心をつく質問に回答者としてまず指名されたのは、(株)ドクターシーラボでEコマース全体のマーケティングを統括する西井氏。

行き過ぎた効率化で成長の停滞要因となっていたコールセンターを改革した経験から、顧客とのコミュニケーションを見直し、WEBをカタログではなくコミュニティとして再定義する中で、必然的にソーシャルメディアへの対応を強化していった経緯を語りました。西井氏によるとTwitterで自社製品を愛用しているとツイートした有名人に対して感謝のリプライを送ったことをきっかけに、そのファンともコミュニケーションが始まり、「買いました!」という売れた瞬間が可視化された事例もあったそうです。

上代氏は、日本マイクロソフト(株)では「お客様からの好意的な口コミを顕在化して最大化する」ことをソーシャルメディアのミッションとしていると語り、自然発生している純粋な口コミの「好意」や「高評価」を可視化し、増幅させていくコミュニケーションを継続していくことで、ソーシャルの効果を売上で実証出来ると断言しました。

上司からの質問2「局地的な話ではなくて、会社全体にどう影響があるのか説明してくれよな?」

経営の視点で考えた場合、「売上」だけではソーシャルメディア活用のメリットの全てを評価することは出来ないと答えたのは電通の廣田氏。エージェンシーとして企業の中長期的な経営戦略を見据えたソーシャルメディア活用について語りました。

(株)電通 プラットフォームビジネス局 開発部 廣田 周作氏

「ソーシャルメディアは宣伝だけでなく、広報やお客様センターの役割も担える。さらに、採用に影響することもある。ソーシャルメディアはお客様の声が一番多く集まる場所であり、それをリスニングして会社全体にお客様の声を届けることもできる。これは中長期的に考えれば企業の存在価値を高めることになり、社員のモチベーション向上や、社内の連携強化につながる可能性もある。」(廣田氏)

トレンダーズの経沢氏は、ソリューションベンダーの立場から「世の中には数えきれないほどの商品・サービスがあるが、ソーシャルを活用しないでヒットした商品は1個もないと断言出来る」といい、ソーシャルメディアで繋がった消費者とのコミュニケーションが企業活動を支える大きな基板になると語りました。

上司からの質問3「エージェンシーさんはどういう風にソーシャルで役にたってくれるんだ?」

企業がソーシャルメディアによって生活者と直接繋がれるようになり、そのコミュニケーションをサポートする立場のエージェンシーには求められているものが変わってきていると答えた廣田氏。

「ソーシャルメディアの活用は長期戦のため、クライアントと代理店が一緒に走る続ける必要がある。特に運用体制の構築は重要だが、内部だけではうまくいかないことも多い。エージェンシーが客観的にみてアドバイスするからこそうまくいくこともあるだろう。そういう意味では、エージェンシーは施策単位のプランニング力よりファシリテーションが出来るプランナーを増やす必要がある。また、ソーシャル×PRの領域が非常に重要になってきている中で、拡散の状況を明確に可視化し、プランニングを精緻にしていくことが非常に重要。そして、リアルタイムのソーシャルメディアに対応するスピードが不可欠だろう」(廣田氏)

上司からの質問「効果測定はどうするんだ?」

ソーシャルメディアを積極的に活用し、その効果を実感している当事者にとって、既に現象としては把握できている効果であっても「数値」で説明出来なければ評価されないジレンマは大きいようで、上代氏は「上司や他部署からはデータで示せと言われるが、エクセルのデータをそのままみせてもピンと来ない。」と、実際に上代氏が分析に利用しているデータを紹介しながら、解説をしました。

日本マイクロソフト(株) ソーシャルメディア  マーケテイング リード 上代 晃久氏

「Twitter運用の検証は、製品名を含んだツイート、製品名とポジティブなキーワードを含んだもの、ネガティブなものをそれぞれエクセルでまとめたシートを使っているが、並んだ数字だけを見ていてもどうにもならない。たとえば、Twitterのフォロワーが増えれば、自社アカウントにメディアとしての規模感がでて、間接的にはアウェアネスにかかわってくるだろう。誤解や疑問のあるツイートを発見した時はそのままにせず、解決をサポートするコミュニケーションをとることで、ブランドロイヤルティを向上させ購買意欲に繋げることも出来る。アウェアネスからロイヤリティに至る、既存のマーケティングフレームワークの中で、どこにどう作用しているか、データから次の一手を考えることが重要」(上代氏)

「ビッグデータよりビッグディスカバリーが大事であって、データから今のインサイトが読み取れるようなアウトプットの仕方が必要。そこから先、次にどういう手を打つかを考える際に、チャンスの在処を示唆することがエージェンシーの役割だろう。データ自体を大事にするよりは、クライアントと代理店がデータを一緒に読むプロセスが大切だと感じている。」(廣田氏)

ドクターシーラボではソーシャルメディアで語られた自社のコメントを毎日全社に共有しているといいます。「担当者であれば自分の仕事へのフィードバックは嬉しいはず。ポジティブなものだけでなくネガティブなものであっても、そこで何か感じることがあるはずで、そこに工夫していく積み重ねが大切」(西井氏)

議論は、ソーシャルメディア施策の評価を様々な角度から検証する取り組みへの工夫から、さらに具体的な「指標」の話に進みます。

「確かに指標について聞かれることは多いが、“指標は生き物”だと思っている。ソーシャルメディアの本質はコミュニティーであり、立ち上げてすぐに売上に結びつけることは難しい。最初の立ち上げ期に重要な指標、成長期に重要な指標というように、成長フェーズによって見るべき指標は変わる。“半年、一年後に一番重要な指標は何か”を考え、PDCAを回していくような取り組みが重要では?」(廣田氏)

「例えばブロガーを使った施策では、“何人がレビューを書いたか”と”どれだけ売れたか”では、評価が全然違ってくる。ポイントの回転率上昇を狙いたいとか、押したい商品があるとか、目的達成のために“この数字を変えたい”という意志が重要で、それを評価するための適切な指標をその都度作ることが重要。目標設定が経営サイドの戦略と上手くリンクするとさらに評価しやすいはず。ただ、効果測定は大事だが、それを全てだと思ってしまうとダメだと思う」(経沢氏)

と、エージェンシーサイドからは柔軟な指標設定が提案されましたが、上代氏は「乱暴に言うと、1000人しかフォロワーがいないのに、毎月50万もかけて検証する意味があるのかということ」と、効果測定自体の費用対効果にも懸念を示しました。

(株)ドクターシーラボ マーケティング部  eコマースグループ グループ長 西井 敏恭氏

それを受けて西井氏は、「ドクターシーラボのFacebookページは今でこそ40万人のファンがいるが、立ち上げ当初は5~6万人。エンゲージメント率10%が高いといっても、100人のうちの10人に対するコミュニケーションでは意味が無い。そういう意味では最初は数。ドクターシーラボでは、リーチ出来るファン数を広げてから次にエンゲージ。そして、エンゲージが高まってきたところでサイトに対する流入や、売上への関わりかたを見るというやり方をしている」と、自社の効果測定の考え方を語りました。

上司からの質問「社内の組織体制はどうするんだ?」

生活者との直接的なコミュニケーションにおいては、企業姿勢が問われることも多いソーシャルメディアを活用するには、社内の組織体制を変化させていく必要もあるでしょう。店舗、電話、ウェブと複数の販売チャネルをもつドクターシーラボでは、西井氏が中心となって全社を横断したコミュニケーション・プランが立てられているといいます。「ソーシャルメディアの担当者だけがソーシャルメディアをやっていけばいいという考え方ではダメ。うちはトップもソーシャルをやっていて、社内的にもフラットな環境になっている」(西井氏)

「ライフネット生命の社長は、1日5回のTwitterが義務付けられているという話があるが(笑)、まずは経営陣にソーシャルメディアを体感してもらって会社自体をソーシャルネイティブにしていくというやり方もある。ソーシャルメディアには、ポジティブだけでなくネガティブな声もあり、それはコントロール出来るものではないということを経営陣が理解して、その上でソーシャルメディア活用を経営戦略に落とし込んでいけるかどうかが重要」(経沢氏)

「ソーシャルメディアの活用は会社のビジョンに連携する部分が多い。エージェンシーとして手伝う際は、クライアントのビジョンを明確にすることが必要。ビジョンなきソーシャルメディア運用は、手段の目的化になってしまう。ただ、まずは、小さく始めてみるということも大切。小さな成功体験を積んでいくと、次第に他部署や経営者からも注目されるようになり、社内横断の道が開きやすい」(廣田氏)

上司からの質問「知名度の低いブランドでも行けるのか?」

ソーシャルメディアで存在感があるのは大手のブランド企業ばかり。やはりソーシャルメディアではブランドの知名度が重要なのではないか?という問いには、エージェンシーサイドにいた経沢氏が、自身も企業経営者としての立場での所感も含めた回答を語りました。

トレンダーズ(株) 代表取締役 経沢 香保子氏

「知名度の低いブランドだからこそ、ソーシャルメディアを活用するべき。実はうちの会社は広告費をほとんど使ったことがない。2万人以上の応募がある新卒採用でも、女性起業塾の塾生募集にも数百万単位といった広告費は使っていない。参加した人が書いてくれたブログの記事が広告の代わりになった。このように話すとソーシャルメディア上で影響力のある人に書いてもらうほうがいいと思われがちだが、最初は影響力が無くても熱心に書いてくれる人がいい。ソーシャルメディア上で公開してくれたコンテンツは永遠に残る企業の資産になるから。」(経沢氏)

上司からの質問「Eコマースでも効果があるのか?」

冒頭の質問でスピーカーのドクターシーラボとマイクロソフトからは、回答になりうる実例が紹介されていたため、この質問にはモデレーターの中村から、別視点での考え方の提案として「米肌」という通販コスメブランドの事例が紹介されました。

「これまではFacebookページのファンを、どうやって自社サイトに誘導するかを考える企業が多かった。しかしこの事例は、自社サイトの購入客を、Facebookページでファン化するという逆転の発想。購入完了メールからFacebookページに誘引し、繋がり続けることで、リピート率が1.6倍、購入単価も1.27倍と、LTVの向上が見られた。(この日午前中のキーノートで)コカ・コーラでも今後は、自社の会員制サイトからFacebookページへ誘導する取り組みに注力すると言われていたように、ソーシャルメディアで繋がり続けることによって醸成したエンゲージメントが、購買意欲を向上させるという考え方はこれから重要になっていくだろう」(中村)

上司からの質問「海外のトレンドはどうなっているのか?」

この質問にはグローバル・ブランドとして、世界的にソーシャルメディアを活用するマイクロソフトの上代氏が回答。

「ソーシャルメディア関連では、BtoBでの活用の話を良く聞くようになってきた。BtoBの商品であっても中にいるのは「人」なので、積極的に会話してくことでコミュニケーションが成り立つ。日本ではあまり見られないが、欧米ではかなり一般的になってきているので、大いにヒントになる」(上代氏)

ツールに関してはアプリベンダーでもある経沢氏が、「文字や静止画に比べて表現力の強い“動画”コンテンツの活用に注目している。アプリでも、個人が簡単に動画を編集して、音楽まで付けてアップロード出来るものがたくさん出てきた。これからはブログ、Facebook、Twitter、そして“動画”がくるのでは?」と語りました。

上司からの質問「ソーシャルのマーケティングへの関わりは、3~5年後とか長期で考えるとどれくらいのインパクトになると思うか?」

セッションの最後は、それでもまだソーシャルメディアの活用に積極的になりきれない上司からの根本的な疑問に、シーラボの西井氏がズバリ回答。

「シーラボは5年ほど前にコミュニケーションを主軸に置いた戦略転換をおこなった。その結果、当時年間20億だったECの売り上げが、今は100億ほどになっている。新規の売上は数十億というところであまり変化しておらず、既存顧客の売り上げが5倍程に成長した。これが「答え」なのではないか」(西井氏)

モデレーターの中村は「2013年はソーシャルメディアがスマホとクロスした年。スマートフォンからのデータを活用するためにも、ソーシャルメディアでの繋がりはますます重要になるだろう。中長期で考えた時のインパクトの大きさを考えたら、もうソーシャルメディアに取り組まないという判断はない。ただし、関係構築のためにはそれなりの時間が掛かる。だからこそ早く取り組み、経験を積んで知見を活かす戦略が必要になってきている」と結論付け、武富社長からも“いいね!”が出たところで、会場からの拍手をもってセッションが終了しました。

今回の「ad:tech tokyo(アドテック東京)2013」は全般的に、「ビッグデータ」活用についての議論が多かった印象ですが、こうしたデータドリブンなマーケティングに注目が集まる背景には、「ソーシャルメディア」と「スマートフォン」が大きく影響しているのは間違いありません。

生活者がモバイルデバイスを片手にアクティブに活動し、ソーシャルメディアで繋がることによって、マーケターは今まで知りえなかった多くのデータを手にすることが出来るようになりました。社会的属性に加えて、行動履歴や消費動向、更には態度変容や心理状態までもが、「モバイル」と「ソーシャルメディア」によってリアルタイムに把握出来つつあります。

今回の「ad:tech tokyo(アドテック東京)2013」は、「モバイル」と「ソーシャルメディア」によって得た「データ」から生活者を深く理解し、カスタマージャーニーを再構築してタッチポイントの最適化を進め、体験の可視化やクチコミの拡散、施策効果のバイラルを生み出し、コミュニケーションを「増幅」させていく。そんなマーケティングの「ストーリー」が浮かび上がった2日間だったように思います。

デジタルとリアルが融合し、マーケティング・コミュニケーションの「点」が「線」として繋がり始めた今、あなたはお客様との間にどんな「ストーリー」を描きたいと思いますか?

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