2012年にイスラエルの3DプリンタメーカーObjetと合併し、厳しい試験にも耐える高耐久性の熱可塑性プラスチックパーツ用の「Fused Deposition Modeling(FDM)」と、完成品と同じルックとフィールを与える精密モデル用の「PolyJet」の2つの方式の3Dプリンタを提供する3Dプリンタメーカー大手のStratasys。2013年6月には個人向け低価格3Dプリンタを手掛けるMakerBotを買収し、その取扱い製品の範囲を拡大させている。そんな同社のアジア・太平洋、ならびに日本地域を統括するStratasys APのGeneral Manager(GM),APJであるJonathan Jaglom氏は、「日本はすでに3Dプリンタの一大市場を形成しているが、ものづくりの変革により、その市場はさらに伸びを見せる」と語る。

Stratasys APのGeneral Manager(GM),APJであるJonathan Jaglom氏。とても陽気に同社の現状やものづくり産業の将来展望を語ってくれた

3Dプリンタが引き起こす開発現場の変革

一般的なものづくりの手順というとざっくり言うと、まずはマーケティングなどの情報を元に製品の「コンセプト」が作られる。その後、そのコンセプトを元に手描きスケッチによる製品のデザインが起こされ、それをベースに3D CADでデザインを行い、最適化を繰り返し、最終的にブラッシュアップされたものが量産製品として市場に出回ることとなる。

しかし、「製品開発を短期間で実現するラピッドプロトタイピング(RP)としての観点からは、アイデアベースのものをそのまま形にしてしまう"ファーストプロトタイプ"を経て、"触感"や"物性"、"詳細なビジュアル"などのテストを行い、そして最終的に機能が固まったところで実製品と同一の材料で"衝撃テスト"や"耐久テスト"などの製品に対する一般的な"品質テスト"を、それぞれの段階に適した3Dプリンタを用いることで実現することができる」とJonathan Jaglom氏は語る。

例えば現在の同社の場合、ファーストプロトタイプには「Ideaシリーズ」という3Dプリンタを用いることで、電装系やデザイン、アンテナなどの仕様確認を行うことができる。また、触感や物性、ビジュアルチェックなどの場合は、高解像度で出力可能な「Designシリーズ」が提供されており、そして実製品と同等製品を出力する「Productionシリーズ」を活用することで、金型を起こす前に、実製品と同じものでさまざまな評価を行うことを可能としている。

「エンジニアやデザイナーは、実製品と同じ、リアルな材料を用いることでRPを実現したがっている」(同)であり、ObjetやMakerBotとの統合・買収はそうしたRPに対する製品提供のスピードをあげるためだという。

日本はアジア・太平洋におけるメインストリーム

こうしたObjetとの統合やMakerBotの買収は、一方的に行われたものではない。「フィロソフィとしては"結婚"」とのことであり、事実、現在のStratasysのCEOはObjet出身者が就任しているほか、代理店も従来のObjetを扱っていた代理店、Stratasysを扱っていた代理店の双方をそのまま活用する形で、代理店の垣根を越えて、両社の製品を扱うことで販路を拡大している。

中でも日本はStratasys製品を長年扱ってきた「丸紅情報システムズ」とObjet製品を扱ってきた「アルテック」の2代理店体制が構築されており、「アジア・太平洋地域の中でもトップシェア」(同)をすでに有しているという。「グローバルで見ても、相当大きなシェアを有しており、そのために2拠点体制も構築している」とのことで、日本では3Dプリンタがものづくり産業にすでに根付いていることを強調する。

しかし、かといって日本市場が今後伸び悩むのかというとそうでもない。同氏は日本市場は今後も成長が続くのか、という問いに対し「Yes」と力強く返答してくれ、その理由を「まだまだ2D CADで終わってしまっている企業も多くあり、そうした企業が3D CADに移行することで市場は確実に成長する。中には2D CADも使っていない企業もあるので、そういう企業を取り込んだり、デザイナーやCGクリエイターなど3Dに対するポテンシャルを持つ人などに対しても裾野を広げることで成長を図ることができる」と説明する。

特にターゲットとしているのは、コンシューマ(消費材関連や各種家電製品)、メディカル、エアロスペース、オートモーティブ、そして教育分野だという。例えば教育分野では、筑波大学が同社の3Dプリンタ「Objet350 Connexマルチマテリアル3Dプリンタ」を導入し、同大の体育専門学群の藤井範久 教授が率いる研究チームの手により開発されたフェンシング用ヒルトを用いた日本フェンシングチームが2012年のロンドン五輪にて銀メダルを獲得したという。

またMakerBotの買収により、ホームユースへの道筋が開かれたことも大きいという。「2Dのプリンタが家庭にて、色々なものの印刷に用いられるようになったように、3Dプリンタも同じ感覚で将来的に使われるようになるだろう。文字通り、無いものは作ってしまえば良い、という時代がくる」とするが、必ずしも家の中で3Dプリンタを置いて活用する、というのではなく、MakerBotはパーソナルプリンタであってもプロユースの製品であるため、中小企業などが大企業よりも先にパーツなどを作るために活用したり、一般ユーザーがキンコーズなどの出力サービスを活用したり、といった使われ方を想定しているという。

「我々はパーソナルユースを軽視するつもりはない。そこにはプロもいるし、そういった人たちの市場規模が大きくなってくることは分かっている」とのことで、製造業向けとコンシューマ向けという2つの戦略市場に対し、統合・買収により得た総合的な開発力と資金を活用して、新たな製品提供などを図っていく計画だという。すでに2013年には4000万ドルの研究開発費用が充てられているとのことで、「これまで別々の企業だった時には、開発体制ももちろん別々であった。しかし1つの企業となったことで、それぞれの機能の良い所を追求していく体制が整った」と、今後、それぞれの持っていた良い技術を組み合わせた新たな製品が登場し、ユーザーの活用の幅をさらに広げていくことを強調したほか、最後に、現状の製品とこれから登場する新製品も含め、3Dプリンタ技術を活用していくことで、プロトタイプデザインで必ず最適なものを生み出す手助けができるようになり、ユーザーの競争を優位にする手助けができるようになるとのことで、「将来、プロトタイプのデザインや3Dプリンタを活用したいと思った時、真っ先にStratasysを指名してくれれば」、とまだ3Dプリンタを活用したことが無い企業に対するメッセージを語ってくれた。