岡山大学(岡山大)は9月17日、環境中のマンガン濃度の大きな変動に対して、イネの節に存在している輸送体「OsNramp3」が重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。

成果は、岡山大 資源植物科 学研究所植物ストレス学グループの馬建鋒(MA Jian Feng)教授、同・山地直樹助教らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月19日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

原子番号25のマンガンは光合成やさまざまな酵素の活性などに必要な金属で、植物の生育に欠かせない必須元素だ。植物の正常な生育に必要なマンガンの量は乾物重当たりわずか50~100mg/kgである。しかし、土壌中の可溶性マンガン濃度は大きく変動する。特にイネが栽培される水田環境では、水をはっていない状態では、土壌溶液中のマンガン濃度は1μM以下で、湛水(田んぼに水をはること)状態では200μM以上と、大きな差があるのだ。

植物は当たり前だが動物とは異なって移動できないため、健全な生育のためにはこのような大きな変動に対処しなければならないのはいうまでもない。しかし、その仕組みの多くは実は解明されていない。研究チームが今回解明したのは、土壌中のマンガン濃度の大きな変動に適応するイネの仕組みだ。

マンガンは植物の生育にとって欠かせない必須栄養素だが、過剰に蓄積しても生育障害を引き起こしてしまう。一方、イネが生育する水田土壌中の可溶性マンガン濃度は、湛水条件などに応じて数100倍の変動がある。

今回の研究では、イネは節(イネ科植物の茎に作られる発達した部分。葉-根(冠根)-脇芽と茎(または穂)の接点に当たり、養分の分配に重要と考えられている)に存在するOsNramp3の働きによって、変動するマンガン濃度に対処していることが突き止められた(画像1)。なお輸送体とは、さまざまな元素や化合物の輸送を担うタンパク質のことである。OsNramp3タンパク質は細胞の外から中へとマンガンを輸送する役目を担う。

環境中のマンガン濃度が低い時には、OsNramp3は少ないマンガンを優先的に成長の活発な新葉や穂に分配する働きをする。しかし、環境中の濃度が高くなるとOsNramp3タンパク質は素早く分解され、その結果として過剰なマンガンは古い葉に分配されるというわけだ。OsNramp3が環境中のマンガン濃度の変化を感知して、まるでスイッチのように機能するのである(画像2)。

画像1(左):OsNramp3遺伝子破壊株の表現型。OsNramp3遺伝子の破壊株では、新葉や根の先端、穂へのマンガンの分配ができないため、葉の黄化、根端の壊死、種子不稔を引き起こす。画像2(右):節に存在するマンガン輸送体OsNramp3は環境中のマンガン濃度を感知して素早く分解する。50μMのマンガンに曝すと、OsNramp3タンパク質(画像の赤い部分)は約4時間で消失する

植物の生育に必要な栄養分(ミネラル)が不足する土壌、逆に過剰に存在する土壌は世界各地に多く存在し、作物生産の制限要因となっている。今回の仕組みを応用すれば、栄養分が不足する時には、限られた養分を成長の活発な組織へ優先的に分配し、生育を改善できる可能性があるという。一方、ミネラルが過剰な場合は、活発な組織への輸送をやめ、古い組織へ配分することで生育抑制を軽減することができるとしている。