情報通信研究機構(NICT)は9月18日、古河電気工業とその子会社OFS Fitel、オプトクエストと共同で、マルチコアファイバ伝送用の19コア一括光増幅器を開発したと発表した。

詳細は、9月22日~26日にロンドンにて開催される「欧州光通信国際会議(ECOC2013)」で採択され、9月26日に発表される。

スマートフォンなどのモバイル機器が普及することにより、インターネットの通信量は年率40%に達する勢いで増大している。しかし、それを支える光ファイバに挿入することができる光エネルギーには上限があり、現状のままでは物理的な伝送容量の限界を迎える可能性が指摘されている。そこで、この限界を超えるため、1本の光ファイバに複数のコア(光の通り道)を配置したマルチコアファイバの研究が進められている。マルチコアファイバを用いた長距離伝送に必要な光増幅器の研究については、コア数だけ光増幅器が必要な個別励起方式による伝送実験はあるものの、光増幅器が1台で済む一括励起方式については動作実証が報告されているだけであった。このため、実用に適した小型で高効率、経済的な光増幅器の開発が求められていた。

今回の19コアファイバに適合する19コア一括光増幅器は、信号光と励起レーザ光の合波器、増幅用光ファイバ、アイソレータから構成されている。開発では、NICTが基本設計と伝送評価、古河電工とOFSが伝送および増幅用19コアファイバの作成、オプトクエストが光合波器とアイソレータの製作をそれぞれ担当した。

今回の光増幅器は、レンズを用いた空間光学系方式の採用によって、複雑な光ファイバ加工技術によらず、複数コアの光信号と励起レーザ光を一括に効率的に合波する光合波器と、増幅後の通信光が反射して再び増幅器に入射することを防ぐ19コア一括アイソレータを実現したことが特徴となっている。これにより、1台で19コア分の光信号を効率的に増幅できる、小型、省エネ、コスト面に優れた光増幅器となった。空間光学系方式は、簡単にコア数を減らせることから、19コア以下の様々なコア数のマルチコアファイバについても、小型、高効率、経済的な光増幅器を開発することができる。

今回開発した19コア一括光増幅器の構成図

光合波器は、空間光学系方式により、マルチコアファイバの19個の信号光と19個の励起レーザ光をぴたりと合わせることを可能とし、無駄のないエネルギー供給を実現している。増幅光ファイバは、コア間干渉による信号雑音を軽減するために、コア配置を改良した19コア増幅光ファイバであり、各コアにエルビウムイオンが添加されており、励起光レーザにより励起されたエルビウムイオンが信号光を増幅する

空間光学系方式により、一括処理を実現した19コア一括アイソレータ。増幅された光信号の反射を抑え、増幅器のレーザ発振動作を防ぐ

また、19コアファイバにおいて課題とされていたコア間干渉雑音を抑圧するために、コアの配置を改良した。今後、飛躍的に増大する通信トラフィックに対応するため、マルチコアファイバを用いた長距離伝送システムの実用化が加速していくものと期待されるとしている。

新型19コアファイバ(左)と従来の19コアファイバ(右)の比較。従来の19コアファイバは、コアを六角格子上に配置されていたが、新型は同心円上に配置され、コア間干渉雑音を抑圧し、長距離化が可能となっている

NICTでは、マルチコアファイバ長距離伝送の早期実用化を目指し、通信事業者やメーカーとの取り組みを一層推進するとともに、光増幅器のさらなる低雑音、高出力化などの性能向上を図りながら、19コア以下の実用的なマルチコアファイバに対しても適用を進めていく方針としている。