立教大学は9月17日、生物の基本となる細胞の染色体の分配の基本機構を解明したことを発表した。

同成果は、理化学研究所(理研)の藤原崇之博士研究員(現 国立遺伝学研究所 学振特別研究員、立教大学大学院理学研究科生命理学専攻博士後期課程修了)と理研の平野達也 主任研究員、立教大の黒岩常祥 特定課題研究員、東京工業大学の田中寛教授らによるもの。詳細は米国細胞生物学会(The American Society for Cell Biology)の機関誌「MOLECULAR BIOLOGY OF THE CELL」に掲載されたほか、新たな遺伝子破壊法によって染色体の動原体の分配が停止した写真が同誌の表紙を飾った。

染色体の複製や分配の機構の解明に向けた研究では従来、高等動物や真菌類、細菌が用いられてきた。

染色体は細胞核内に存在し遺伝子DNAを担っており、分裂中期になると棒状の染色体の形に凝縮し、やがてXの形となり、微小管により娘細胞に均等に分配されることが知られている。ヒトでは分裂中期には46本が観察されるが、そうした染色体の複製や分配の機構の解明に向けた研究では従来、高等動物や真菌類、細菌が用いられてきた。

研究グループではこれまでのヒトやカエルを用いた研究から、染色体の凝縮と分配にはコンデンシンタンパク質が必須であること、またコンデンシンにはIとIIがあることを報告していた。しかし、それらの機能的な差異とその進化的側面はよく分かっていなかった。

今回、そうしたコンデンシンの本質的な機能と原理の解明に向け、20本の染色体を持つが、分裂中期に個々の染色体が凝縮されない始原的な紅藻のシゾン(Cyanidioschyzon merolae)を用いて、研究を実施。

その結果、シゾンは高等動植物と同じようにコンデンシンIとIIを持つ最も単純な真核生物であり、コンデンシンIIは微小管の構築が阻害されたときに、染色体の動原体の分離・分配に重要な役割をもつことが明らかになったという。これは、、真核生物における染色体構造の進化とコンデンシンの関連を考える上で重要な発見であり、今後の医療などへの応用が期待されるものだと研究グループでは説明するほか、これまでの研究から細菌でも染色体の分離に関わるコンデンシン様のタンパク質が発見されていることを受け、原始的な細菌のような生物の染色体の分配から真核細胞に至る、生物界を貫く染色体の機能進化の過程の理解に役立つことも期待されるとしている。

なお、今回の研究で開発された遺伝子破壊技術はシゾンの分子生物学的手法の新たな展開を示すものであり、この成果はオープンアクセスジャーナル「PLoS ONE」に掲載されたという。

「MOLECULAR BIOLOGY OF THE CELL」の表紙に用いられた写真