京都大学は8月28日、東京都・御蔵島観光協会、三重大学との共同研究により、世界で初めて野生のイルカの突発性射精(夢精)を記録したと発表した。

成果は、京大野生動物研究センターの森阪匡通 特定助教、同・中筋あかね大学院生、同・榊原香鈴美 大学院生、酒井麻衣 日本学術振興会特別研究員、御蔵島観光協会の小木万布氏、三重大の吉岡基 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、8月28日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

突発性射精とは、明らかな性的な刺激なしに射精が起こることをいい、ヒトでは夢精としてよく知られる現象だ。これまでヒト以外では、突発性射精はげっ歯類(ラットやハムスター)、偶蹄類(ヒツジやテセベ)、肉食類(ネコやブチハイエナ)、そしてウマやチンパンジーなどにおいて報告がなされている。

さまざまな動物において見られる一般的な現象であると考えられるが、観察がきわめて難しいため、報告がなされていない動物がたくさんいると考えられるという。中でも観察が難しい水棲ほ乳類に関しては、まったく報告されていなかった。

また突発性射精の機能はわかっていないが、(1)過剰または異常な精子を取り除く、(2)性的ディスプレー、(3)特に機能は持たず、射精を抑制する神経系のコントロールが緩む睡眠もしくは眠たい状態の時に偶発的に起こる、といったことがこれまでのところ考えられている。

東京都の御蔵島周辺海域には100頭を超える野生のミナミハンドウイルカが棲息しており、1994年から保全のための個体識別調査が継続して行われているところだ。ミナミハンドウイルカはハンドウイルカと比べるとやや小柄で、体長は成体で2~3mほど。北太平洋の西側、オーストラリア付近の南太平洋、インド洋などの温暖な沿岸に棲息し、日本近海では小笠原諸島や伊豆諸島などに棲息している。今回の研究は、こうした個体識別調査と行動観察・社会認知研究のためのイルカの水中映像撮影中に記録された(画像)。

ミナミハンドウイルカの突発性射精

この射精をした個体は、当時16歳のオス(個体番号266、愛称は「いるかちゃん」)だった。バンドウイルカは水族館のような危険性のない環境で飼育されている場合の寿命で40年ぐらい(野生だともっと短いとされる)なので、16歳はヒトでいうとおおよそ30歳前後という感じだ。

この個体は射精前には性的な活動をしておらず、直前まで片目をつぶっていたことから睡眠中または目覚め時であったと考えられる(水棲ほ乳類のイルカは、魚類などとは違って常に呼吸が必要なことから、ヒトのように完全に眠ることはなく、左右の半球を交互に睡眠を取るとされる)。

また同時に撮影されていたほかの個体(母子7ペア、6オス、9メス、8不明)も性的な活動はしておらず、不活発で休息中だった。このことから、今回観察された射精は、性的な刺激を伴わない突発性射精であり、また眠たい状態で起こったものと考えられるという。つまり人間における「夢精」に当たる現象だった可能性があるというわけだ。

人間の「夢精」は、性的な夢が射精を誘発させると古くは考えられていたが、一方で勃起や射精などの刺激自体のフィードバックが、性的な夢を(後づけで)形成するとも考えられるという。突発性射精がさまざまな動物種において見られる普遍的なものであるなら、後者の考えのほうが自然であると考えられるとする。夢精や突発性射精に関するさまざまな動物種での報告を積極的に蓄積することで、ヒトの夢精についてもより深く理解が進むものと思われるとした。

研究チームは今後、水族館の職員など、イルカを長期で観察している人たちにアンケート調査などを行い、突発性射精がどのくらい見られるものなのかなど、もう少し詳細な情報を報告していきたいと考えているとしている。