産業技術総合研究所(産総研)は9月9日、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)所有の海洋資源調査船「白嶺」(6283t)を用いた海洋地質調査を鹿児島県徳之島周辺海域にて実施した結果、これまで見つかっていなかった新たな海底火山活動域を発見したと発表した。

同成果は、産総研 地質情報研究部門 海洋地質研究グループの荒井晃作 研究グループ長らによるもの。

海洋プレートの沈み込み帯上に位置している日本において、海底火山の形成・噴火メカニズムや海溝型地震発生のメカニズムの解明に向けて、海域の地質情報を蓄える必要がある。また、領海内ならびに排他的経済水域内の地質情報の整備は、日本周辺海洋の開発・利用という観点から見ても重要な課題となっており、特に将来の鉱物資源の供給源として期待される海底熱水鉱床については、商業化に向けて国を中心とした研究調査が進められており、そうした熱水活動の可能性がある新たな海域の発見は日本における持続的・安定的な鉱物資源の供給に向けた資源ポテンシャルの把握のために重要な知見になると考えられている。

今回の研究は、経済産業省の知的基盤整備計画に沿って産総研が進めている取り組みの1つ。日本周辺海域の地質情報整備をめざし、これまでに日本の主要4島(北海道・本州・四国・九州)周辺の調査を終え、2008年から沖縄周辺海域の海洋地質調査が進められており、得られたデータは活断層の評価や地殻変動の解析、海底資源開発や海底利用、海域の物質循環や環境研究の基礎データとしても使われるという。

沖縄周辺海域の海洋地質調査においては、2010年ならびに2011年度に久米島西方海域において複数のカルデラ地形を伴う海底火山を確認し、2012年の航海で、新たな海底熱水活動を発見していたが、その時の調査では、船舶および搭載機器などの制約により、実際に熱水噴出そのものを観察することはできなかったことから、今回、最新鋭の海洋資源調査船「白嶺」およびその搭載観測機器を用いることで、徳之島周辺海域の海洋地質情報整備に向けた詳細な調査が行われた。

海底火山活動発見場所。左はマルチナロービーム測深機で捉えた火口状の地形。右は海底火山活動発見場所の周辺地図(赤丸印が火山活動域)

具体的には、マルチナロービーム測深機による広域で詳細な海底地形調査、海底面下の地質構造を音波によって調査する音波探査、地質構造を反映した岩石などの物質の違いを調べる重力・磁力などの物理探査に加えて、実際に海底を構成している岩石・堆積物の採取を実施。

マルチナロービーム測深機による地形調査において、徳之島西方海域に存在する海底火山に幅500mの新たな火口状の地形を発見したほか、その内部ではマルチナロービーム測深機やサブボトムプロファイラーによりプルーム状の音響異常が確認されたとする。

音響測深機で音響異常としてとらえた立ち上るプルーム。画像は左から数秒間隔で発信したデータで、 海底面から海面に向かってのびる黄緑色の筋がそれぞれプルーム状の音響異常を表す。色は音の反射強度を表し、赤いほど強く、青いほど弱い

さらに、この音響異常のあった海域に対し、ROV搭載のハイビジョンカメラによるリアルタイム海底観察を行ったところ、海域の濁りや海底面からのガスの発泡が確認され、熱水の噴出口を発見することに成功。噴出口付近には硫化物を好むチューブワームやシンカイヒバリガイといった熱水口に特徴的な生物群集や、熱水口から噴出した硫化物と思われる白色の沈殿物が確認した。

熱水噴出口付近の海底映像。ROV搭載のハイビジョンカメラによって撮影された噴出口付近の様子。硫化物を好む生物群集であるチューブワームやシンカイヒバリガイ、硫化物と思われる白色の沈殿物が認められる

マニピュレーターによる岩石採取。ハイビジョンカメラによる海底の目視観察を行い、ピンポイントで分析に用いる岩石試料の採取を実施

また、ROV搭載のマニピュレーターを用いピンポイントでの岩石試料の採取も実施したほか、ROVに取り付けた温度計で海底面付近における水温上昇も確認したという。

ROVに取り付けられた温度計による海底面での温度異常。ROVはまず海底に着底し、海底面で観察と試料採取を行い、約2時間の観察終了後に離底した。水温が急激に上昇しているところが熱水噴出孔付近に近づき作業していた時間である

研究チームでは、今回の調査の結果、近傍の海底火山に複数の火口やカルデラ地形が確認されていることを踏まえると、さらに多くの別の熱水活動域が存在する可能性が高いとしており、現在、採取された資試料について以下の分析を進めているとする。

  1. 火山帯形成プロセス把握のための海底地形解析
  2. 海底面下の地質構造把握のための物理探査データの解析
  3. 資源ポテンシャル評価のための採取された岩石試料の鉱物・化学分析
  4. 地質構造発達史解明のための岩石試料の年代測定

なお研究チームでは今後、採取した資試料の分析に加えて、海底火山周辺海域の詳細な海底地形調査と岩石採取作業を実施し、海底火山の地質学的な発達の仕組みを解明する予定としている。また、海底熱水活動に伴う鉱床の形成が期待されることから、2013年8月2日付でJOGMECと設置した「資源探査タスクフォース」において、海底熱水活動の分布範囲の把握、活動様式、鉱床存在の可能性について検討を進めていく計画としている。

鹿児島県徳之島西方海域に新たな発見された火山活動域の様子